吐き出した煙が視界を悪くさせ、天井を霞ませては消える。煙を吐き出しては上昇していくそれを眺めるという無意味な動作を繰り返す合間、次元はキッチンに立つ女の後ろ姿を見ては心の中で溜め息をついた。
この動作も先程から幾度となく繰り返している。
「お前らいい加減付き合っちまえ」
そう言うのは簡単なようで意外と難しい。
こじれると言うには多少語弊があるが、ようは自分が今の心境になる前にさっさとそう言ってしまえばこうして悩む事態にもならなかったのに……ずるずると先延ばしにした結果がこれだと自分に言い聞かせる。
「次元、そうめんと冷やし中華どっちがいいー?」
「冷やし中華」
「分かった!」
彼女は仲間の五右ェ門のパートナーとして世界中を飛び回っている。
恋人同士のようなやり取りも多々見受けられるのに2人は付き合っていない。
彼女の方は分からないが、五右ェ門がこのまま彼女との関係をただの「パートナー」として終わらせる気がないということは色恋に疎い自分にも分かる。
ならばさっさと告白なりなんなりして付き合えば良いものを……そうすればお互いにメリットがあるというのに。何度そう考えて五右ェ門の尻を蹴っ飛ばしてやろうと思ったことか。
小さくなった煙草を灰皿に押し付け新たな煙草に手を伸ばしたところで、これ以上吸うとアイツに怒られちまいそうだ……と考えてしまった自分に嫌気が差す。
予想以上に自分は彼女に侵食されていると気が付いたからだ。
これでは本気で手離したくないと思い始める日も案外近いのかもしれない。


もし自分が女なら絶対五右ェ門は選ばないだろうなと彼に振り回される彼女を見る度そう思う。
五右ェ門と一悶着あるごとに自分を頼ってくる彼女のことは嫌いではない、むしろ好きだ……だからこそこうして悩んでいるのだが。
嫉妬深い癖に鈍い五右ェ門にいつあらぬ疑いを持たれ斬り殺されるか分かったものではない。
自分の気持ちを誤魔化すことにも限界がある、一刻も早く2人が恋人同士になることを願わずにはいられない。
「なあ」
「なあに?」
「お前はよ…もし俺が、「まだ行くな」っつったらよ……どうする」
「ん……」
箸を握る手に力がこもる。彼女は啜った素麺を咀嚼してから口を開いた。
「次元がそれを望むなら」
恐らく彼女は有言実行するだろう、だから自分は言わない。彼女の視線の先には常に五右ェ門がいる。
それは今までもこれからも変わらないだろう。
彼女が去った後、彼女を恋しく思ってしまうだろう自分を認めたくないが、気付いたところでもう遅い。


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『溺心』様へ提出。素敵な企画をありがとうございました!

100518

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