※診断メーカーネタ

【ザップと名前語り】つまづいたか何かで、意図無く相手を押し倒す形になってしまった場合について語りましょう。


視界の隅に分厚いファイルが舞う。情報量が物を言うタイプの事件を抱えたおかげで、いつも片付いているライブラの事務所は今やあちこちでファイルや書類がちょっとした山を築いていた。
事務所待機を命じられ、ザップと共に情報収集を行っていた名前は、突如襲ってきた衝撃に思わず瞑っていた目を開けた。
「いってー……」
照明の下、目の前にはザップの顔が至近距離にあって、名前は目を白黒させる。
「えっと、ザップ?」
「ああ、わりーわりー。平気か?」
「うん……だけど……」
自然となってしまう上目遣いでザップを見ればばちりと視線がかち合う。ザップによって質のいいソファーに押し倒されている現状は、勤務時間中に続いて良いものではない。
それなのに。ザップがごくりと喉を鳴らし、目を細めたことで名前はまずいと身構えた。この後起こるであろう展開はTPOのどれを取っても全く相応しくないものだ。
「ちょっ、ザップ……!!」
「なンだよ、いつもは抵抗しねえくせに。生理か?」
降りてくる顔を何とか押し退けようとするも、やはり腕力が違うのかびくともしない。
「そういう問題じゃないっ……!!時と場所を考えてください!」
「いーじゃねえか、BまでだよBまで」
抵抗するその姿勢が加虐心を煽ってしまったらしく、ザップは嬉々とした様子で名前のドレスシャツのボタンを外し、首元に顔を埋めた。ザップの舌が首筋をなぞる感覚に上擦った声が出てしまい、慌てて口元を押さえる。ザップが小さく口笛を吹いた。
「や、ザップ……駄目だってば、やっ、やめて」
必死の抵抗虚しくザップの指がブラジャーのホックに掛かり、難なくそれを外した瞬間、頭に血が上った名前は力の限り叫び声を上げた。
「だ、だから駄目って言ってるでしょーーッ!!」
ズドン!と大きな音が地響きと共に事務所が入っているビル全体を揺らした。

「……ど、どうしたんだね名前……!?」
小一時間後、事務所に帰ってきたクラウスやスティーブンが見たのものは、胸元を押さえて肩で息をしている名前と、向かい側で血液の赤い荊棘で出来た丸い檻の中で気を失っているザップの姿だった。ザップを止めるために名前が「対血界の眷属特化型人間兵器」としての力を使ったことは明白だ。一体何があったのだと心底慌て、心配するクラウスの後ろで、状況を察したスティーブンが額に手を当てて大きなため息を吐いて言った。
「で、肝心の情報は掴めたのかな?」
スティーブンの言葉に、名前がはっと顔を青ざめさせたのは言うまでもない。
「ザップの馬鹿!エッチ!最低です!」
「お前だってちょっと乗り気だっただろーが!」
後日、ライブラの事務所には心底くだらない言い争いをしながら残業に励む2人の姿があったという。


【ザップと名前語り】一緒に昼飯を食べる2人について語りましょう。


ニューヨークが崩壊し、異界と混ざり合って新生してから3年。ヘルサレムズ・ロットと名を変えたその地は、あっという間に地球上で最も危険な場所となった。だが人界側にもたらされたのは何も、未曾有で予測不可能な危険だけではない。人界と異界の異文化交流によってもたらされた恩恵は、意外と多いのだ。──例えば、食べ物とか。
「は……腹減った……」
「昨夜から何も食べてないですもんね……もうお昼だけど……」
ザップと名前に課せられた任務は異界マフィアの違法取引現場への張り込みと制圧……だったのだが、不運な事故で逃走者を出してしまい朝まで追跡する羽目になっていた。器物損壊、傷害、道交法違反エトセトラを経てようやっと確保した時には既に日も高く登っていたというわけだ。
アンダンタル広場のベンチにぐったりとした様子で座る2人の顔には徹夜で街中を走り回った疲れが色濃く出ており、誰も寄せ付けない負のオーラを放っている。
「飯……アー駄目だ一回座っちまうともう動きたくねえ……」
「ちょっ、重いっ」
ザップはずるずると名前に寄りかかる。潰され掛かっている名前が抗議の声を上げているがお構いなしだ。
「あれか、レオか魚に連絡して飯買ってきてもらうか」
「わざわざそんな用事で呼び出すなんて出来ないでしょ、2人だって暇じゃないんだし」
「じゃあどうすんだよー」
「動いてどこかでご飯食べるに決まってるでしょう、ほら起きて」
名前に顔を押し退けられたザップが唸りながら渋々身体を起こした時、少し離れたところに塗装が禿げたワゴン車が停車した。運転席と助手席からはエプロン姿の人類の女性と顔の下から触手を生やした異界の男性が降りてくる。何だ何だと思っていると、女性がワゴン車の横に「ホットドッグ」と書かれた立て看板を置き、あっという間にそこにホットドッグスタンドが出来上がった。風に乗ってソーセージの焼ける匂いが香ってくる。
「見ろ、名前!飯だ!」
「何ですか……」
名前を起こし、ホットドッグスタンドを振り返ると、そこには既に長蛇の列が出来上がっていた。
「あっ、あのお店!」
店名に気付いた名前が立ち上がり、嬉しそうな表情で指を指す。
「ヘルサレムズ・ロットでも指折りのホットドッグの名店ですよ!売ってる場所も時間も神出鬼没で、幻って言われてる!」
「マジかよそれ!俺らラッキーじゃねーか!」
「物凄い幸運ですよ、早く並びましょう!」
疲労も忘れて慌てて列に並ぶ。辺りにはホットドッグの他にフレンチフライやオニオンリングの香りも漂っており、幸運を掴んだ人々が幸せそうな表情でホットドッグを頬張っている。
「楽しみだなァオイ」
「ザップ涎出てますよ」
「うるせえお前こそ顔だらけてんぞ」
「だらけない方がおかしいってもんですよ」
などとヘルサレムズ・ロットらしからぬ穏やかで幸せな雰囲気に浸っていたのも束の間、いよいよ順番が回ってこようかという時だった。ヒュッと風を切る音がしたかと思うと、2人の前に巨大なパワードスーツが落ちてきた。ホットドックが宙を舞い、悲鳴が上がり、住民達が一目散に逃げていく。
パワードスーツに描かれているマークには見覚えがあった。今朝方まで2人が散々追いかけ回していた異界マフィアのものだ。烟る土煙の中さらに現れたパワードスーツ群の頭部が動き、2人を捉えたと同時に不気味な咆哮が轟く。
「オイオイオイオイ、割り込みすんなってママから教わらなかったのか?このポンコツ共」
お礼参りにやってきた彼らに中指を立てて挑発し、ザップはジッポを取り出す。そして隣で黙っている名前に声をかけた。
「行くぜ、名前……」
ザップの言葉が終わるより早く、名前が駆け出し、血液で出来た荊棘の触手がパワードスーツの首を落としていた。首を失い、倒れたパワードスーツの胴体をブーツで踏みつけ、名前が地を這うような低い声で言葉を発した。
「ボルト1本残らないと思いなさい、このxxxxが」
名前の背中から漂う怒気に、ザップはいつぞや約束をすっぽかして彼女を怒らせてしまったことを思い出し、無意識に股間を守るように押さえた。今回はザップが怒らせたわけではないが、ようやくありつけると楽しみにしていた食事を前にしての仕打ちに、堪忍袋の緒が切れたのだろう。ホットドックスタンドが無事であることが唯一の救いだろうか。
仲間のあっけない死に、一度は怯んだものの異界マフィア達は負けじと太い腕の先を銃口へと変化させた。
弾丸が発射されるより早くザップと名前は左右に飛び退く。
敵の懐に飛び込んだザップが斗流血法を発動させて相手の首筋に刃を滑りこませれば、あっという間に胴体と首が離れていった。
反対側では相手の腕を触手で斬り飛ばした名前が噴き出た鮮血に向かって左手を翳していた。
人差し指には赤い薔薇の指輪が嵌められている。
薔薇の中の赤い液体が揺れた。
「ブライアローズ血泉術」
名前が呟いたと同時に、まるでそこだけ時間が止まったかのように、血液が空中で動きを止めた。
「黒赤薔薇の剣」
刹那、空中に飛び散っていた血液が幾つもの鋭い剣先へと姿を変え、パワードスーツの首筋に突き刺さる。ザップが血液を発火させることが出来るように、名前もまた己の血液を付着させた液体の形状や形質を自在に変えることが出来るのだ。
異界マフィアも、まさか自分の血液で死ぬことになるとは夢にも思っていなかっただろう。
次々とパワードスーツを物言わぬ瓦礫へと変えていく名前を見て、ザップも負けていられないとばかりに刀を握る手に力を込めた。助走の最中に飛んできたロケット弾を難無く避けたが、飛んで行った方角にあるものを思い出し、ザップは「おい名前!スタンドがやべえ!」と叫んだ。標的を失ったロケット弾が、ホットドックスタンドへ一直線に向かっていたのである。
掴みかかってきたパワードスーツを糸状にした血液で絡め取り動きを止めた隙に、足元に転がっていた中身の入ったペットボトルを名前の方へと向けて蹴り上げる。
スパン!と鋭い音がして、視界の隅でペットボトルが触手によって切断された。
「白薔薇の生垣」
量産されている馴染み深い炭酸飲料は即座にホットドックスタンドを守る防護壁へと姿を変え、ロケット弾が直撃することはなかった。逃げ遅れたのかあるいは逃げなかったのか、スタンドの中から店員の2人が顔を覗かせた。
「あ、すいません、特製ホットドックセットL2つ。飲み物はアイスティーとコーラでお願いします」
それに気付いた名前が触手でパワードスーツの腕やら足やらを胴体から弾き飛ばしながら言った。十数体程いたパワードスーツは、今やもう片手で数えられるまでに減っている。
食事にありつける時は近いだろう……聞こえてくるパトカーのサイレン音に目を瞑れば。
その後、騒ぎを聞きつけ駆け付けた警察を撒き、2人が念願のホットドックを頬張ったのは日没に近い時間になってからだった。助けてくれたお礼だと、店主がおまけでつけてくれたオニオンリングが2人の間で香ばしい匂いを放っている。
「あーうめえ、やっぱり飯はちゃんと食わねーとだな」
「ですね」
満足そうにホットドックを頬張る名前の横顔にザップは小さく笑みをこぼし、小さくなったホットドックを口に入れた。

きっと多分恐らく大方愛してると思う

150406
Thanks:剥誓
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