突如一晩にして崩壊し再構成されたアメリカ合衆国は元ニューヨークシティ、現ヘルサレムズ・ロット。そこは今や濃い霧の結界に覆われ、異形ひしめく魔都となっていた。超魔導に呪術に超常現象エトセトラ……かつて誰もが現存しない想像の産物だと思っていたモノがここにはある。
そんな街では異常が日常であり、今日もまたどこかで異常が発生しては街の混沌ぶりに拍車を掛けるのだ。
「何だこれ……ビーズ?にしちゃあ穴開いてないし、何か血みたいの付いてるぞ……?ソニック、これ一体どこで拾ったんだよ」
その日、レオナルド・ウォッチはいつも通りライブラでの勤務を終え、いつも通り帰路についていた。いつもと違ったのは、よく行動を共にする音速猿のソニックが、小指の先ぐらいの大きさの小さな玉を拾って持っていたことだ。レオナルドには奇妙な玉にしか見えなかったが、ソニックは大層気に入っているらしく、レオナルドから玉を受け取ると頭上に掲げてみたり見つめてみたりしている。そんなソニックの姿にレオナルドは鼻から息を吐き、「帰ったら血みたいの拭いてやるから、無くすなよ」と話しかける。ソニックの大きな愛らしい瞳が喜びに染まったのを見て、レオナルドが笑みを浮かべたその時だ。
風を切る音がして、乗用車がすぐ前の街路樹に突き刺さった。
「え……」
ギギギと不穏な音を立てながら、突き刺さった乗用車がこちらへ傾いてくる。何が起こったのか完全に把握しきれないまま、レオナルドは慌ててその場から離れた。しかし、一息つく暇もなく背後から咆哮と共に禿頭の異形が周囲の車や障害物を跳ね除けてこちらへと向かってきていたので、いつぞやの時のように街中を走り回る羽目になってしまう。
「うっ、うわわわわわ!?」
たちまち逃げ惑う人々やら野次馬やらでパニック状態のお祭り騒ぎと化した通りを全速力で駆け抜けながら、レオナルドはついてない!と心の中で叫んだのだった。

同時刻、付近の高層ビルの屋上。そこにトレンチコートの男性を横に抱えた色素の薄い金髪の女性が降り立った。赤いドレスシャツのフリル状の裾がふわりと舞い上がって落ちる。欠伸を一つしてから、女性は横抱きにしていた男性に視線を落とす。
「ここまででお怪我は?ダニエル・ロウ警部補」
「お陰様で無傷だ。俺のプライド以外はな」
「あら、では次は是非私を抱っこして下さいな」
「逮捕されてもいいってんならな」
ダニエル・ロウ警部補と呼ばれた男性を降ろし、女性は返り血を付けた顔で「それは困ります」と苦笑した。
「そんなことになったら、無実の警察官が沢山殉職する羽目になってしまいますから」
女性が肩をすくめた時、何回目かの轟音が辺りに響き渡る。
「ッチ、奴さん見境なしか!ヤケクソだなありゃ」
生体感知機能付きの双眼鏡で眼下を覗いたダニエルは忌々しげに呟いた。その双眼鏡を受け取った女性が「無理もないと思いますよ。あの情報だけで億単位の金とクスリが動きますものね」と言う。
「お前なあ、汚たねえ顔で覗くなよ」
顔をしかめたダニエルがハンカチを女性に突き出す。それを意外そうな表情で受け取った女性はやがてにこりと笑って「ありがとうございます」とハンカチで顔を拭った。白い肌に宝石のトルマリンを彷彿とさせる蒼い瞳の、まだどこか幼さが残る顔立ちは整っている。
「お礼に今度一緒に焼肉でも」
「ほざけ、異界ヤクザをミンチにした奴と肉なんざ食えるかよ」
「残念です」
女性は屋上の段差の上に立つと、「では、この後は我々にお任せを。ご協力ありがとうございます、お疲れ様でした」と大仰にお辞儀をした後背中から空中へ身を踊らせた。ダニエルが慌てて下を覗いた時にはもうそこに女性の姿はなかった。
「……あの女、署の備品パクって行きやがった!」

顔に当たる夜風は冷たさを孕んでいる。
眼下では宵闇の中でも燦然と輝く無数のライトの中、禿頭の異形が行く手を阻むポリスーツや車などを薙ぎ払いながら通りを駆けている。
名前はふと、追跡している異形の進行方向を見て首を傾げた。あの異形が自分から逃れるつもりならば一直線に異界方面へと逃げ込むのが賢い選択だ。有象無象が蠢く異界の深部にまで逃げ込まれたら、ただの人間である自分たちは追跡を断念せざるを得ないのだから。それなのに、異形はどんどん異界方面から離れるように移動している。
つまり、奴には異界に逃げ込めない理由がありそれはおそらく……。刹那、耳に付けていたインカムに着信が入る。
「こちら名前」
「名前、標的は見えているな?」
相手は名前が所属する秘密結社ライブラの上司であるスティーブンだった。
「標的は情報源を追っている。君は情報源を保護した後、標的をグランドセントラル消失公園まで追い込んでくれ」
「はい。ですが保護とは?」
あの異形は巨大な麻薬密売組織の売買人リストや取引場所、麻薬の隠し場所といった組織の最重要機密を保持する幹部格であり、名前が警察と協力しここ数ヶ月間追い続けてきた存在だった。異形は情報源を常に肌身離さず持っていたが、それは決して使い魔やゴーレムといった生体の類ではなかった。名前の問いにスティーブンが答える。
「幸か不幸か、情報源をうちの新入りが持っているようなんだ」
「それは何とも……物凄い幸運というか、不幸というか……」
「新入りの彼はあれでなかなか肝が座っているんだが、戦闘能力は皆無に等しい。このままでは危険だ。それに彼は「神々の義眼」の保有者でもある」
「それって……!!」
神々の義眼。ずば抜けた視覚能力を持つ眼球の王とも言うべき存在が、この世にもたらされるのは歴史の大きな転換期の時だけだ。その恩恵は計り知れないという。
「彼は我々にとってなくてはならない存在だ。いいか、何が何でも絶対に生きて保護しろ。これは命令だ」
「──承りました」
スティーブンから新人の特徴を聞いた名前は双眼鏡で該当する人物を人混みの中から探し出した。小柄で、音速猿を連れている新入りの少年は、今にも異形に追いつかれそうなところだった。名前は辺りを見回し、高所作業用のリフトを見つけるとそれに向かって左手を突き出した。
薔薇の指輪の中で、赤い液体が蠢いた。

──もうどれぐらい走っただろうか。背後の、腹部を真っ赤に染めた異形が足を止める気配はない。
「何だってんだよ全くもう!」
毒づいたところで状況は変わらない。それどころか、異形は追いかけるスピードを上げているようだった。
「きゃっ!」
レオナルドの横を走っていた親子のうち、幼女が足をもつれさせて地面に倒れる。
「……くそっ!」
それに気付いたレオナルドは足を止めて振り返り、目を大きく開いて神々の義眼の能力を発動させる。バランスを崩した異形がよろめき、道路に倒れた。異形と周囲の野次馬の視界を混ぜたのだ。その隙に親子は無事に逃げたが、異形を完全に退ける決定打にはならないようだった。
起き上がり、頭を左右に振った異形の目が、レオナルドを捉える。ただならぬ怒気にレオナルドは思わず後ずさった。
すると、突如異形の身体の上に高所作業用のリフトが落ちてきたではないか。中に置かれていたのか、ペンキの缶が跳ね上がり、カラフルな色の飛沫が飛び散る。
「ブライアローズ血泉術 黒赤薔薇の剣」
間髪入れずにペンキの飛沫が無数の赤く鋭い剣先へと姿を変え、異形の身体に降り注いだ。異形から悲鳴が上がる。
「あれは……!?」
頭上で色素の薄い金髪が舞い上がったと思ったのも束の間、その金髪の女性のドレスシャツの袖口から伸びてきた赤い触手が、レオナルドの腰に巻き付き、空中へと放り投げた。素っ頓狂な悲鳴が口から漏れる。
「──よっと」
耳元で女性の声がして、レオナルドは恐る恐る目を開けた。顔に風が当たり、胸の辺りが生暖かい。
「えっ、えっ!?」
奇妙な浮遊感に思わず手足をばたつかせるが、腰から背中にかけて何かにがっちり固定されていて思うように動けなかった。やがてブーツがコンクリートを打つ音がする。先程までの喧騒や雑音が遠い。地上から随分離れた高いところにいるらしい。
「ごきげんよう、不幸な新人さん。お怪我はありませんか?」
「えっ、あっ、ハイ!あの、あなたは……っていうか何で僕、あなたにおんぶされてるんですか!?」
レオナルドが思ったままの疑問を口にすれば、彼をおぶっている金髪の女性がにこりと微笑む。
「それはあなたが重要な情報を持っていてかつ最優先で保護すべき期待の後輩、だからですね」
「情報に……後輩?じゃああなたも、ライブラの……?」
「はい、名前・名字と申します。これからよろしくお願いします、レオナルド・ウォッチさん」
「よ、よろしくお願いします……名前さん。それであの、今の状況って」
「あなたを餌に標的をグランドセントラル消失公園まで誘導するところですね!」
「あ、やっぱりいいい!?」
再び轟音と異形の咆哮が轟く。ヴィオは欠伸をして腕を伸ばすと、「じゃ、行きましょうか」と言って看板の上から飛び降りた。
「うわああああああああ!?」
名前の袖口から飛び出した赤い触手が別の看板に巻き付く。猿が木々を伝うように名前は触手を操り反動をつけて、器用に看板やビルの屋上を移動していく。
「レオナルドくん、怖かったら言ってくださいねー」
落ちたり上昇する度に情けない悲鳴を上げていたレオナルドは「今更すぎますよそれ!怖いです!めちゃくちゃ怖いです!」と叫んだ。
「まあ怖いって言っても地上走ったらすぐに追いつかれる上に色々面倒なのでこのままなんですけどね!」
「そんなことだろうと思ってました!」
悲鳴が宵闇に溶けて消えていく。グランドセントラル消失公園までもう少しだ。

□■□■□

「あの、名前さんのそれも、クラウスさんやザップさんと同じものなんですよね?」
某アメコミヒーローのような移動方法にようやく慣れてきたレオナルドは、名前と出会った時から抱いていた疑問を口にした。
「そうですよ」と名前が頷く。
「クラウスさんや皆さんはお元気ですか?」
「はい、少し前まではばたばたしてて怪我する人もいたんですけど、最近は落ち着いてますね」
「そうですか、良かったあ。やっと皆に会える」
「しばらく会ってなかったんですか」
「ええ。下のあれがなかなか尻尾出さなくて。でもそれも今日でおしまいです。早く片付けましょうか」
前方にはグランドセントラル消失公園の木立が見えていた。名前が地面に足をつき、レオナルドを降ろした。するすると複数の触手が名前のドレスシャツの中へと消えていく。身体を固定していたのは触手だったらしい。
「万能ですね」という言葉は途中で遮られる。腹部を赤く染め、息を乱した異形が猛スピードでこちらへ向かってきていた。鋭い爪が生えた太い腕が伸びる。左手を構えた名前が叫ぶ。
「レオナルドくん、私の後ろに!」
「はっ、はい!」
「ブライアローズ血泉術」
レオナルドが目を凝らすと、名前が嵌めている指輪の薔薇の部分から赤い液体が数滴飛んだ。液体の正体は名前の血液だろう。
「黄薔薇の楔」
その証拠に、異形の腕に付着した液体が太い赤い楔となって腕を貫き、そのまま切断した。異形の絶叫と共に大量の血液が噴き出し、名前の顔やレオナルドの髪に付着する。
降りしきる血の雨の中、全く動じる様子を見せず名前が技名を唱えた。
「青薔薇の喝采」
その瞬間、血の雨がまるで時が止まったかのようにぴたりと止んだ。そして名前が掌を返したと同時に血の雨粒は花弁のように姿を変え、花吹雪のように吹き荒れた。レオナルドは思わず顔を腕で覆う。赤い花弁は刃になっているのか、異形の身体を切り刻んでいた。ひらりと掌の上に落ちた花弁を名前が握れば、それが合図だったかのように切り刻まれた異形の全身から血が噴き出し、遂に異形はその巨体を停止させ地面に倒れた。
「──ふう」
掌で顔の返り血を拭った名前が振り向き、レオナルドに微笑みかける。
「お疲れ様でした」
「はい……ありがとうございました。助けてくれて」
「何の、同じライブラの仲間なんですから当然ですよ。それにお礼を言うのは私の方です。あなたが情報源を肌身離さず持ってくれていたおかげで、私の数ヶ月が無駄にならずに済んだんですから」
「あ、名前さん、その情報源って結局何だったんですか?」
眠そうに目を擦った名前がレオナルドの肩を指差した。
「え、ソニックですか?」
「ソニックくんが持っているその玉。それの中に麻薬密売組織の売買人リストや取引場所といった最重要機密が収められてるんです。ソニックくん、現場の近くで拾ったのかもしれませんね」
「そうだったんですか……これにそんな秘密が」
レオナルドがソニックから玉を受け取ると、名前が「あんまり素手で触らない方が良いですよ」と手袋と密封袋を取り出しながら言った。
「その玉、シリコンボールって言って、元々男性器の中に埋め込むものなんですよ。セックスを楽しむためのツールってやつですね」
「……え、じゃあこれって」
「あいつの男性器の中に入ってたのを私が奴の男性器を切断して取り出した物です。と言っても、あいつがあまりの激痛に暴れて回収し損ねていたんですけどね。結果オーライでした」
長期任務を無事に終え、清々しい表情の名前とは裏腹に、レオナルドは呆然とした表情で自分の手を見つめる。血のようなものが付着していたのも名前の話を聞けば納得がいくが、いかんせん「とんでもないものに触ってしまった」というショックが大きかった。
「──レオ、名前!」
そこへクラウスを先頭としたライブラのメンバーが駆け寄ってきた。
「2人とも怪我はないかね?」
眼鏡の奥のグリーンアイに心配の色を滲ませたクラウスの問いに、レオナルドは名前と共に頷いた。ほっとした表情を浮かべたクラウスが、名前を見る。
「名前。長きに渡る任務、本当にご苦労だった。君の活躍で、麻薬中毒の被害を未然に防ぐことが出来た」
「ありがとうございます」
「疲れただろう、明日はゆっくり休むといい。分析にはこっちから回しておこう」
スティーブンがシリコンボールの入った密封袋を受け取って言った。
「しかしまあ、よくもこんな物の中に隠したもんだ。君もよく分かったな」
「奴が普段から風俗狂いだったにも関わらず施術は幹部に昇進直後だった点から推測しました」
名前がはにかんで続ける。
「2年前だったら、分からなかったと思います」
この2年の間に何があったのだろう、というレオナルドの思考は、談笑していた名前の身体が突然がくんと崩れ落ちたことで中断された。
「ちょっ、名前さん!?」
「──ったく、世話の焼けるお姫様だよ」
まるで糸が切れた人形のように倒れた名前を受け止めたのはそれまでK.Kと共に異形を拘束していたザップだった。
「ザップ……」
名前に名前を呼ばれたザップの目が切なげに細められる。がしがしと乱暴に頭を撫でた後、彼女を抱き上げたザップがクラウスに向き直った。
「旦那、こいつ今日は事務所で良いだろ?」
「勿論だ。レオ、君も早く休んだ方がいい」
何事もなかったかのように引き上げていく面々に、「いや、いやいやいや!」とレオナルドは声を上げる。
「皆さん平然としてますけど大丈夫なんですか、名前さんいきなり倒れたでしょ!?」
「いーんだよ、これで」
ザップが答えた。
「こいつはそういう体質なんだよ。血を使い過ぎると反動でアホみたいに寝ちまう」
「そ……そうだったんですか」
言われてみれば、名前はザップの腕の中でぐっすりと眠っている。
「あ、だから欠伸してたんだ……大変ですね」
「まあな。こればっかりはどうしようもねえ。俺達に出来んのはこいつが寝てる間に起きたことを目を覚ましたこいつに聞かせてやることぐれーだな」
「……え」
「何だよ」
「いや……ザップさんがそんなマメなことしてたのが意外で……」
思ったことを素直に言えば、ザップの容赦のない蹴りが飛んできた。
「俺を馬鹿にしてんのか、泣かすぞ陰毛頭!」
「馬鹿にしてないッスよ!ただ優しいなって思っただけです!」
「俺はいつだって優しいだろうがこの野郎!」
嘘だ、と言いかけた言葉をレオナルドはそっと飲み込んだ。さっさと踵を返して歩きながらも、名前の顔に残った返り血を拭う手や、名前が名前を呼んだ時に一瞬見せた表情は、まるで──……。
その予感は後日、確信へと変わることとなる。

□■□■□

「返せよー!!お金払う気ないなら返してくださいいいい」
「んー、やっぱ何回食ってもチーズは絶品だなドギモ」
いつものように宅配ピザのアルバイト中にいつものように届け先でザップが待ち構えており、いつものようにピザを強奪され、レオナルドは顔を涙で濡らしていた。当然のように料金を踏み倒したピザを、美味そうに頬張る全裸のザップの脚にしがみつき、ずるずると引き摺られる形で愛人宅へと入ったレオナルドは聞こえてきた足音にはっと顔を上げ、構える。どんな姿、容姿の愛人と鉢合わせしても、もう驚かないつもりだった。
開いたドアの向こうから、見覚えのある色素の薄い金髪と、トルマリンを彷彿とさせる蒼い瞳の女性が現れるまでは。
「ちょっとザップ、またデリバリー頼んだの?身体に良くないですよ……って、あら。おはようございます、レオナルドくん。先日はどうも」
「…………え…………」
赤と黒の下着姿で平然と挨拶をした名前に、レオナルドは不法侵入したこととあられもない姿を見てしまったことに対して謝るのも忘れ、唖然として女性……名前を見上げた。彼女の下腹部にはちょうど腰をぐるりと一周するように荊棘のタトゥーが入れられている。
「どうしてレオナルドくんがうちに?」
「ピザの配達」
ピザをもりもりと頬張りながらザップが答える。それを聞いて名前が疑わしげな視線を彼に向けた。
「……まさかとは思いますけど、代金は」
「こいつのおごり」
「そんなの通用するわけ無いでしょう、もう!ごめんなさい、レオナルドくん!今支払いますから……おいくらですか?」
名前が髪を耳にかけながら屈んだことで豊かな双丘が揺れてくっきりと曲線を描く。風呂上がりなのか、ふわりとバラの匂いが香った。
レオナルドは堪らず悲鳴を上げて顔を覆う。
「うわあああああすみませんすみません!ごめんなさい!」
「えっ、えっ、レオナルドくん!?」
レオナルドの悲鳴と名前の戸惑う声に、ザップの笑い声が重なり、混沌とした状況が形成される。レオナルドが落ち着きを取り戻したのはそれから数十分後のことだった。
「…………ええと、名前さんは、その、ザップさんとは」
着替えた名前に出されたカフェラテの湯気がゆらめく。レオナルドの問いに名前は隣のザップと顔を見合わせた後あっけらかんと答えた。
「成り行きでセックスした関係、ですかね?」
「そういやお前この前の赤毛はどうなったんだよ」
「今度会いますよ、舞台やるらしいです」
2人のやり取りを聞いたレオナルドは、自分の中の名前のイメージが音を立てて崩壊していくのを感じていた。
ここはヘルサレムズ・ロット、この地に住まう者はやはり、強烈な個性を持った曲者ばかりのようだ。

夢のつづきで逢いましょう

150427
Thanks:亡霊
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