※ドラマCDのあらすじから捏造
※捏造設定

アロハロア島で開催された2051年のアルテミスも昨年同様白熱したバトルが繰り広げられ、大盛況の内にその幕を閉じた。
そして、それを受けて大会の運営委員会である提案が可決され、その日の内に出場者へある通知がなされる運びとなった──……。
「俺も行く!」
「ふざけるな!」
「いいだろ別に!減るもんじゃねェし」
「決勝で負けて空気も読めなくなっちまったのか!?そんなに行きたきゃバンたちとでも行きやがれ!」
朝からぎゃあぎゃあと騒ぐ郷田を蹴り飛ばし、部屋に押し込めた仙道はドアを荒々しく閉めた。その際外側から鍵を掛けることも忘れない。
「誰があいつを会わせるかよ」
乱れた髪を掻き上げ、足早にエレベーターへと向かう。ポケットのCCMが、メールの着信を告げていた。

□■□■□

事の発端は、アルテミス会場から泊まっているホテルへ戻った仙道と郷田の下へ届いた封筒だった。
流れるような筆記体で書かれた宛名以外何も書かれていないそれに不審感を覚えながらも開けると、真っ先に「招待状」の三文字が目に入る。
差出人はアルテミスの大会運営委員会で、曰く大会が大盛況だったことを受け近々素晴らしいバトルを披露した出場者たちを集めて感謝の意を込めたパーティを開くとのことだった。
「パーティかあ……楽しそうだね!」
うきうきとした表情で名前は並べられているシャツの一枚を手に取り、仙道に渡す。
「……ちょっと派手すぎじゃないかい」
「……だ、だよね!」
そのパーティにはドレスコードが適用されるということで、翌日仙道は恋人の名前と共にパーティに着ていく服を選びに訪れていた。
名前が派手な赤いシャツを棚に戻している傍らで仙道はあまり興味がなさそうに棚を眺めている。
「全く面倒だねえ、ドレスコードなんて」
「あはは……でも、本当に私が選んじゃっていいの?それでダイキくんが恥かいたりしない?」
「しないよ」
不安そうに仙道を見上げる名前に半ば呆れながら仙道は名前の額を小突く。
「見ず知らずの店員よりお前の方が俺に似合うものを選んでくれるだろうし」
「う……が、頑張ります……」
「楽しみにしてるよ」
さりげなくハードルを上げ、仙道は意地悪そうな笑みを浮かべる。
何枚かのシャツを持ってきては仙道の身体に合わせ、真剣な表情で吟味した結果名前が選んだのはシンプルな白のシャツだった。
それと黒の細身のシルエットのジャケット、パンツを選ぶ。
「これで全部か?」
「うん。あ、サイズ合ってるか試着しないと……」
「それもそうだね」
言うなり仙道は名前の手の中の服をひょいと取ると店の隅にある試着室へと歩いて行った。名前が慌てて彼の後を追いかける。

しゅるりと衣擦れの音がして紫色のストールが試着室の床に落ちる。その下の茶色のジャケットに手をかけたところで、仙道は試着室の扉の近くにぼんやりと立っている名前に声を掛けた。
「……ずっとそこにいるつもり?」
「えっ?……あっ!ご、ごめんなさい!」
「俺の着替え、見たいの?」
逃げられる前に腕を掴んで引き寄せ、耳元でそう囁くと名前の顔が一気に赤く染まった。わざと見せ付けるような動きでジャケットを脱ごうとすると焦った声で仙道の名前を呼ぶので、そこで仙道は堪えきれずに吹き出した。
名前は驚いた表情で目を白黒させている。その姿に更に仙道は笑う。
「冗談だよ、冗談」
「ひ、酷いよ!」
「別に見たけりゃ見ててもいいよ」
仙道の申し出を首を横に振って拒否し、名前は慌ただしく試着室を出ていった。きっぱりと拒否され、微妙な心境に陥りながらも仙道は着替え始めた。

赤くなった頬の熱を冷まそうと試着室の外で名前がしばらく奮闘していると、やがて試着室の扉が開いて仙道が出てくる。
ドレスアップした彼の姿を一目見た名前は言葉を失いその場に立ち尽くす。
「おい、名前?」
その様子をいぶかしんだ仙道の言葉にはっとして、名前は仙道の手を掴んで試着室へ押し込もうとする。
「おっ、おい!」
ぐいぐいと無遠慮に背中を押してく名前に抗議するべく仙道が背後を振り返ると、こちらを惚けたような目で見つめている大勢の女性客の姿が目に入った。
何だろうと思うより早く、試着室の扉が音を立てて閉まる。
「いきなり何だよ」
「服……それで良いです……」
「何で敬語になってるんだい、ていうかいい加減こっち見なよ」
俯いて顔を上げようとしない名前の顔を半ば強引に上げさせれば、その顔は先程より真っ赤に染まっていた。
「今度はどうしたの」
「…………ごめんなさい……その……ダイキくんが、かっこ良すぎて……」
「は……」
「ああ何でもない!忘れて!」
名前の小さな呟きはきちんと仙道にも聞こえており、今度は彼の顔が赤くなる番だった。
試着室内に気恥ずかしい空気が流れる。
「全く、どうしてくれるのさこの空気……」
赤くなった顔を隠しながら名前を横目で見て仙道が呟けば同じように顔を隠した名前が答える。
「な、名残惜しいけどダイキくんが着替えればいいと思います……」
「そうだね」
もっともな正論に仙道は脱力し、着替えるべく名前に背を向けた。
「いっそのこと裸を見られた方がましだったのではないか」という考えが一瞬頭を過って消える。名前はこの年齢では今時珍しい程純情なのだ。裸を見たが最後羞恥心で卒倒するのが関の山だろう。
「──なあ」
それでも実際そうなった場合どうするのか気になってしまい、仙道はそっと試着室を出ていこうとしていた名前に声を掛けた。
「もし偶然俺の裸を見たら、どうする?」
「ど、どうするって言われても……」
ほんの好奇心から言ったことなのに名前は真剣な表情で考え込み、やがておずおずと口を開く。
「とりあえず……写メ?」
この一言で仙道は名前という人間が分からなくなった。
少なくとも、絵に描いたような純情な少女ではないことだけは確かである。

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Thanks:不在証明
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