Oneiroi 6/6 「シレーヌっ」 我に返ったジェラールはイリスの襟元に掴みかかった。工場の中をまっすぐ突っ切ったので、靴やズボンの裾が灰で汚れる。その灰は、さっきまで人の形をして生きていた。それを踏み荒らした事に罪悪感を覚えるが、今はそれ以上にイリスがこんな事を引き起こしたことが辛くて仕方がない。 「なんで……こんなこと……」 そもそもジェラールはイリスにこのようなことをさせたくなくて、危ない橋を渡ったのだ。人を殺したことがあるのは知っていた。目の前でそれを見たことだってあった。けれどそれは、こんな理不尽な殺戮ではなかった。 彼女は決してそんな存在ではないはずだ。 それとも、自分がそう思いたいだけなのか。 イリスはジェラールから銀色の目を逸らして何も言わない。 「俺たちはそういう生き物だ。望む、望まないにかかわらずな」 横から割って入った淡々としたシンの声。正当化するような発言に、ジェラールはシンを睨みつけて息巻いた。 「お前がやらせたんだろう!」 こういう言い方は良くないが、イリスにやらせずに自分でやれば良かったのだ。あの少年を火だるまにしたように、全員そうすればいい。いや、建物ごと燃やすこともできただろう。もちろん彼らが死ねば良かったわけではない。だが、他人にやらせるのはあまりに卑怯だ。 「否定はしねぇよ。けれど、俺たちがどう生きてきたか、全く想像できないわけじゃないだろ?」 シンの台詞やロビンの憤り、イリスの在り方。詳細は掴めずとも、想像することはできる。 襟を掴んでいた手を離す。数歩下がると項垂れた。 「イリス、今日帰りはそいつに送ってもらえ。さすがにこんなことやらせたとあっちゃぁ、あいつに殺されるからな。報酬はまた後日」 そうしてイリスの肩を叩いたシンは、ジェラールを振り返る。 「とてつもなく嫌かもしれないが、居合わせたお前が悪いんだ。責任を取って、しっかりこいつを家まで送り届けてくれよ、探偵さん」 暗い夜道とはいえ彼女のような人を送る必要があるのか。反抗的にそう思いながらも、自分から首を突っ込んだ手前、断ることはできなかった。 [小説TOP] |