あ、と思ったときには目は他のところを写していた。なぜならあっちがこっちに目線を飛ばしてきたから。つまり、いわゆる条件反射。心臓がいやにうるさい。


正直に言えば早くここから逃げ出したかった。誰もいないところに行きたかった。しかし残念ながら俺は付き添いだから待たなくてはいけない。最悪だ。最悪すぎる。


そっとバレないように視線を戻す。向こうは特に気にも留めていないのか、もうこちらに見向きもしていなかった。一組の、いかにも仲良さげな男女が、楽しそうに笑っている。そんなどこにでもありそうな光景が、俺の心臓をきりきりとしめつける。やめろ、やめろ、と念じてみても伝わらない。変な汗が握りしめた掌を濡らす。不快感が押し寄せる。


「岳人、お待たせ!」
「お、おう…」
「ん?どうしたの?顔青いよ?」


冷や汗が背中を伝う。やめろ、その先は。耳を塞ぎたいのを必死にこらえて声を絞りだす。


「なんでもねえよ。用事は?終わったのか?」
「うん、終わったよー。付き添いありがとねー!」
「おうよ。じゃ、戻ろうぜ」
「そだねー」


なんとか成功した誘導に胸を撫で下ろしつつ、もう一度だけ視線を飛ばす。眼鏡の向こうはもうこちらには一ミリも動いていないことに九割の安心と一割の悲しさを感じながら、俺はその場を静かに離れた。



- - - - - - - - - - - - - - -
片思いがっくん。




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -