「君を殺す夢を見たんだ」
シンタローくん、と続いた言葉に、夢で殺されたらしい少年は後ろを振り返った。振り返った先にいた少年を見つめる目は、驚愕に見開かれている。そんな如月伸太郎を特に気にも留めず、いつもと変わらない笑顔を浮かべて鹿野修哉は話を続ける。
「すごくはっきり覚えてるんだ。君は椅子に座ってて、怯えた顔で僕を見上げてるんだよ。僕はそれを黙って見下ろしててさ。それから両手を伸ばすの。ちょうど、」
こんな感じで。
伸ばされた手に、しかしシンタローは反応が出来なかった。あ、と気がついたときには喉仏に両の親指が当てられていた。反射的に唾を飲み込んだ喉が、ダイレクトにカノの指の感触を伝えてくる。このまま力を少しでも込められたらやがて自分は死ぬだろう。そう脳は教えてくるが、身体はまだ準備が整っていなかった。にっこりと細められた猫目に背筋が凍る。
ああ、自分はこのまま死ぬのか。目の前で満足げに笑う少年の手にかかって、十八年という短い人生を終えるのか。やり残したことは、大いにある。だが、こうなってしまってはどうしようもない。それならば、無駄な抵抗はやめた方が楽に決まっている。さようなら、父さん、母さん、モモ。そういえば、もしものことがあったらデータを消すように、ってあいつに頼んどけばよかったなあ。
諦めたようにそっと瞼を下ろした標的に、ハンターは笑みをますます深くする。そして、両手に力を込めて。
「なあんちゃって」
ぱっ、と解放された首に、シンタローはまた目を見開く。気管を上がってきた空気にわずかに咳き込みながら、それでも目を白黒させてカノを見つめる。
「まさか本当に殺すと思ったの?やだなあ、シンタローくん!僕はそんなことしないよ?」
殺人犯になりたくないしねえ、と笑う少年から先ほどまでの恐怖が感じられない。どこか拍子抜けした様子で聞いていた少年は、やがて怒りで顔を真っ赤に染める。
「お、おまえ…!」
「あはははは!いやあ、まさか乗ってきてくれるとは思ってなかったからねえ。覚悟したように目を閉じたシンタローくん、よかったよ?………ぶふっ!」
「うるさい!」
堪えようとして失敗した笑い声に背を向け、足取り荒く部屋に入っていく少年。その背を見届ける瞳が、きらり、と赤く光った。
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何気なく浮かんだ光景。