(あ、泣きそう)


うまく働かない脳内で向日はそんなことをぼんやりと思った。じわり、じわり。瞳を薄く涙の膜が覆う。でも泣くわけにはいかない。頭上に広がる青空。仲間の影。そしてわずかなプライド。その全てがそうさせない。そうさせてくれない。向日はきつく瞼を閉じる。一、二、三。そっと開けば、膜は跡形もなく消えていた。よし、これでいい。そして目線を前に向ける。見慣れた背中。肩。髪。太陽を反射したあの眼鏡はまがい物。


忍足侑士はコートの中にいた。ネットの向こうの相手を見つめる目は、鋭い。かつて自分が、自分と相方が負けた憎き敵。再びコート上で出会ったからには勝ちたい。勝たなければいけない。自分の為にも、コート外にいる彼の為にも。


そんな彼の覚悟が背中越しに伝わり、ピリピリ、と肌を刺激する。これほどまでに荒々しいプレイをする相方を向日は知らなかった。いつだって余裕のある笑みを浮かべて、一つ一つ洗練された技を使って、それでもしっかり勝ちを取りにいく。これが彼の戦い方だった。少なくとも向日が知る限りでは。


(あ…)


頬に違和感を覚えてそっと触れてみると濡れていた。傍らの後輩に気づかれないよう向日は下を向く。これ以上、この試合を見ることは彼には出来なかった。



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侑士がどこか遠くに行ってしまいそうに感じたがっくん。
イメージは全国大会のS3です。



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