校門を出たところで、丸井は足を止めた。


「…何やってんだよい」
「おお、遅かったの」


首だけで振り返ったのは銀髪の少年。仁王雅治。寒いのだろうか、マフラーの中に顔を埋めている。しゃがみこんだまま立ち上がらない彼を不審に思いつつ近づく丸井の目に、茶色い何かが僅かに映った。あれ、と肩越しに覗けば、毛の塊が三つ。


「猫じゃよ」
「それは見りゃ分かるっての」


三匹の猫。茶に三毛に黒ぶちが仁王の足元で気持ち良さそうに寝転がっている。ゴロゴロと特有の音を出す様を見つめながら、丸井は口の中のガムを膨らませる。


箱の中に入っているのを見るからに捨てられたのだろう。もっと他に良いところがあっただろうに何を思って学校前にしたのだろうか。拾う気なんか無い奴らにこうやって遊ばれるだけなのが関の山なのに。と、どこか冷めた頭で丸井は目の前の男を見つめる。猫と戯れる詐欺師の後ろでは、結わえた髪が尻尾のごとく揺れている。


「仁王ってさ」
「なんじゃ?」
「猫みたいだよな」
「は?」
「そっくりだぜい」
「意味分からんぜよ」


不満そうに表情を歪める様はますます猫そっくりだ、と丸井はガムを噛む。気まぐれで自由奔放。華奢だが柔軟性に富んだ体つき。こうして猫と戯れる姿を見ていると、その頭に二つの耳がある錯覚を抱きそうになる。


「ブンちゃんは犬みたいぜよ」
「俺のどこが犬だってんだ?」
「…意外と従順なところとか」
「それを言うなら赤也だろい」


レギュラー唯一の後輩の名に仁王は納得したような表情を浮かべる。先輩である自分たちの言うことにはなんだかんだ言いながらも従順。ひとたびリミッターが外れれば暴れ出す様は、さながら狂犬のようだ。


それじゃあ、と仁王は言葉を続ける。


「犬じゃなかったらあれじゃ。豚」
「んだとてめえ!」


怒る丸井を尻目に、ポンポン、と軽くズボンを叩き仁王は立ち上がる。そして、ん、と流れるように手を差し出してくる。突然のことに面食らいつつもつい手を握れば、ぐい、とそのまま引っ張られる。細い腕に似つかわしくない強い力によって、丸井は半ば引きずられるようについていく。ヒラヒラ、と目の前で振っている手は、おそらく先程の猫たちに対してなのだろう。


(普段ならこんなことしない癖に、気まぐれっていうかなんというか…)


まあだから好きなんだけどな、と丸井はまたガムを膨らませた。



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猫っぽい仁王くん。



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