ピンポン、と軽快に鳴ったチャイムにドアを開けて鬼男は固まった。
「お、おに、お、くんっ!」
まるで幼子のように泣きじゃくる男がそこには立っていた。一際赤くなった瞳から涙が止めどなく流れている。近所迷惑にするわけにもいかず、とりあえず家の中に入れてやる。幸いなことに家族はまだ帰っていなかった。
「あ、あ、どうし、よう、うえっ」
「何があったんですか?」
「うう、うえっ、えっ」
「大王?」
「ひっ、いもちゃ、んに、ね」
「妹子?」
「す、うっ、すき、って!」
そういうことか、と納得する。最近やけに恋人の周りにいた男の顔を思いだし鬼男は奥歯に力を入れる。邪魔な奴だとは思っていたが、まさかここまでとは。分かっていたのだろう。自分には何をしても勝てないということを。だから最後の置き土産に気持ちを告げたに違いない。なぜなら彼はあまりにも優しすぎるから。
『あなたには勝てません』
以前言っていた言葉が蘇る。
「ど、しよ、ひっ、…どうし、よ、う!」
「大王」
「お、俺のせ、いで、あ、あっ、妹ちゃ、んが、うぐっ、き、傷つい、た!」
「大王」
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以前書いた妹→閻の続き。