事の発端が何だったのかなんて、私はとっくに忘れてしまった。きっと些細なことだったのだろう。


「ちょっと、仁王くん!」
「しっかり捕まっときんしゃい、柳生!」


突然前方に傾く車体。ぐんぐんと景色が横を飛び去っていく。そもそも今の私たちの行為自体が法に反しているのに、加えてこの速度違反。なんと紳士にあるまじきことだろうか。しかし、そんなことを気にする余裕は生憎私には無かった。


言われた通り目の前の背中にしがみつく。どんどんと加速する世界に振り落とされないように、目の前の彼に置いていかれないように、しっかりと。ぎゅっ、と目を閉じ額をくっつければ安心感が胸に広がる。私とそれほど背丈が変わらないはずなのに、どうして彼の背中はこんなにも大きくて逞しいのだろうか。


ああ、おそらく、それは。


「着いた、ぜよ」


きっと私が仁王くんを愛しているからでしょうね、なんて簡潔すぎる言葉を出すのを躊躇ってしまうほど、愛する人の笑顔はきらきらと夏の日差しに輝いていた。



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とある夏の日の28。




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