「…………は?」 さっきまで確かに握っていた傘の柄の感触が消え、虹介は数秒固まった。 それから傘立てを確認する。もちろん傘はない。 ごしごし目をこすったところで、ふいに頭上から声が降ってきた。 「あれ。外? やった!」 賑やかな声は、人気のない空間に嫌というほど響き渡る。 虹介は、目をこすっていた手を止めて、どうすべきか思案していた。激しく嫌な予感がする。 それでもいつまでもこうしてるわけにはいかない上に、声は虹介に話しかけてきた。 「そこの男子。傘開いたの君?」 「…………」 しばし躊躇うも勢いよく顔を上げた。 同時に、やっぱりと頭を抱えたくなる。 ──まず見えたのが紺色のハイソックスを履いた足。何で目線の高さに足があるんだという考えはひとまず置いておき、視線を上にあげる。 チェックのスカートと白い半袖のシャツ。胸元には赤のリボン。どこから見ても制服だ。 「どこ見てるのよ。スケベ」 声に苛立ちが含まれたのを感じ取り、慌てて視線をさらに上に向ける。 その瞬間──強い瞳に出会った。 ツインテールの黒髪をなびかせて、小さめの唇はきつく引き結んで、そして──気位の高い猫のような少しつり目がちの瞳はまっすぐに虹介を捉えて。 少女は居た。 床から一メートルくらい高いその位置に、彼女は浮いていたのだった。 |