昇降口に佇みながら、虹介(こうすけ)は容赦なく地面に打ちつける雨を見つめていた。 チラリと視線を横に向けると、雨に文句を言いつつも傘を開き体を丸めて豪雨の中に踏み出す者たちの姿。見送ったのは、今出て行った男子生徒で何人目だろうか。 出来ることなら虹介も後を追いたかった。 下校時間が迫っていることも理由の一つだが、何より見たいテレビ番組に間に合わなくなる。録画を頼もうにも家にいるのは機械音痴の母親のみ。 「参ったな」 今朝は快晴だったから傘は持ってこなかった。タイミングの悪いことに、置き傘は昨日の雨で使って今は家。 友人たちも既に帰ってしまったし、教室を覗いても誰の姿もなかった。 あまり社交的ではない虹介には、見知らぬ生徒に徒歩十分のコンビニまで相合い傘を頼む勇気もない。 ほとほと困り果てて雨を睨みながら立ち尽くすこと十五分。雨は一向に弱まる気配を見せない。 こんなことなら日課の図書室通いはやめておくんだったと後悔しても時既に遅し。 最終手段──濡れて帰ることを覚悟するべきかと考え始めた時、ふと昇降口隅の傘立てに気が付いた。 下駄箱脇にいくつかある、いつもは忘れ物や置き傘が数本立っている傘立てはとっくに空だ。持ち主の分からない傘も誰かが無断で持っていったらしい。 なのに、隅にぽつんとあるその傘立てには、スカイブルーの傘が一本だけ立っている。 「ラッキー」 これ幸いと傘に手を伸ばすが、ふと思う。 誰も持っていかなかったということは壊れてたりするのだろうか。よく見ると少し古びた感じがする。 だが、背に腹は変えられない。 虹介は傘を手にすると、軽く叩いて埃を落とした。 錆び付いてないことを祈りながらワンタッチのボタンを押す。 ポンッ 小気味いい音がして──虹介の手から傘が消えた。 |