食満のことしょくまんって呼んじゃう
「しょくまん、くん」
「…けま、です」
どっと笑い声が起こった。うわあああやってしまったあたしのばかばかばか、「すみませんごめんなさいあたし事務員なのにまだ全員の名前も覚えられないなんて事務員失格ですよねごめんなさいけまくん」マシンガンのように早口であやまるとけまくんは苦笑いでいいですよ気にしないでくださいと返してくれた。なんて優しい子!
…でも、それからだったんです、彼のあだ名がしょくまんになるのは。
「おいしょくまん!アヒルボートが」
「けまだ!…どこだ」
「しょくまーん、委員会の子が呼んでる」
「しょくまん先輩!」
「け ま だ」
「しょくまんじゃないか」
「…仙蔵まで」
これはどう考えてもあたしのせいであり、こころからお詫びしたいと思ったしだいでありまして。
「けま、くん」
長屋で休憩している彼に近づくと、名前覚えてくれたんすね、とさわやかに笑ってくれた。…きゅんとした。じゃなくて。
「あの、先日はほんとに失礼なことを…。これ、よろしかったらお納めください」
町で評判の、おいしいお団子。おずおずと、差し出す。
「お納めください、って。あは、おもしろいっすねみょうじさん」
みょうじさん、彼の口から出た言葉に少々びっくりする。あたしはしがない新米事務員なのに。名前を覚えていてくださったんですか…!
「けまくん」
「はい?」
「すきです!」
「…はああああ!?」
けまくんの叫びが、学園中に響き渡りました。
「あの、すみませんごめんなさいちょっと言いたくなったのでつい」
「あんたはすきになったら誰にでもこんなこと言うのか!」
「いやそんなことはないですけど。名前覚えていてくれたんだと思ったらうれしくて」
けまくんははあはあと荒い息をはいて、深呼吸して、ためいきをついた。重ね重ね、申し訳ないです。ためいきとともに、ぼそぼそと声が聞こえた。
「…気になっていた女性と、やっと話せたかと思ったら名前間違えられるし」
「あら。あたしと同じですね」
「…はあ。そのうえばかだし」
「よっぽどですね」
「…どんかんだし。すきとか言われて舞い上がった自分が馬鹿でした」
「けまくん、気を落とさないでください…」
良い人なら、たくさんいますよ!胸をたたいて、あたしとか!とか調子に乗ったらふ、と笑われた。…やばいいまのわらいかたすごくすきかもしれない!
「けまくん…!」
「なんすか」
「そのわらいかた、すきです!」
「…はあ、」
ちしま
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