ディーノとドライブ



久しぶりに帰ってきたかと思ったらいきなりドライブ行こうぜ、なんて。



急いで上着だけ羽織って外にでる。すでに助手席を開けたディーノがどうぞ、なんて気取った仕草でエスコートしてくれて、照れて笑っているディーノを見たのは久しぶりだった。



ディーノはずっとお仕事でなかなか家に帰ってこられなかった。
広い家にひとりは落ち着かなくて、でももうこんな年だし?お留守番怖い、なんて言ってられないのが現状だ。



大人になった私たちはゆっくりと星のない夜を走り始める。
今日は新月なのかな、いつもイタリアを照らしてくれる月は今日はいない。



車の中はラジオから流れる流行り歌だけが静かに響いて、疲れてるだろうに、ディーノはずっと前を向いて運転している。



ディーノの横顔がすきだ。
綺麗だ、と思う。
することもなく私はただディーノを見つめていた。



「なまえ?」
「ん?」
「照れる」



しっかりと気付かれて、まああれだけ見てたら気付くわな、少しふたりで笑いあった。



夜のためか、車のとおりが少ない。
行き先もわからない途中、赤信号でとまると、不意にディーノの唇が押しつけられた。



突然のことでびっくりして、ん、とかへんな声でちゃったじゃん。



ゆっくりと、ことりがついばむようなキス。



クラクション。



はっとしたようにディーノはせっかちだなあ、とつぶやいて車を発進させた。
いつのまにか青になっていて、後ろに車がいたらしい。まったく気付かなかった。



「ディーノ」
「‥‥ん?」
「‥‥なんでもない」
「‥‥ん」



きっとなにかあったんだろうな、と思う。
けど、聞かない。



「愛してるよディーノ」
「俺も、…愛してる」



ドライブの行き先は聞いてないけど、



ちしま