安仁屋の名前が書けない
「バーカ!なんでお前は彼氏の名前をかけないんだよ!」
怒るけえちゃんの後ろから湯舟がなんだなんだとねこじゃらしをみつけた猫のように目を輝かせて割り込んできた。ぜったいこいつ野次馬根性すわってる。
「だって、む、むずかしいじゃんけいいちって」
「普通かけんだろ、それくらい」
岡田はクールに、あたしの握っていたペンをさらって、日誌に「安仁屋恵壹」と書いた。
「う、む、かけなくは、ないけど」
むずかしいから、さあ。
あきれたように(あきれてるんだろうけど)溜息をついたけえちゃんは日誌を一枚破いて(あ)、これに名前書いて来い、みっちりな。隙間があったらやり直しという鬼のような宿題をだしてカバンを肩にしょった。
「え、そんな!」
「おら、かえんぞ」
のろのろすんな。ぶっきらぼうだけど、ちゃんとあたしを待ってくれる優しいけえちゃん。
日誌とペンケースをかばんにつっこむと、ばいばい!とみんなに言い残して部室をあとにした。
それにしても壹ってむずかしい。わすれるじゃん。あたしばかなんだなー。岡田でも書けんのに。へこむわー。
ちしま
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