綱吉を抱きしめる


歩くたびにふわふわと揺れる彼女の髪。俺はいつもねこじゃらしに飛びつく猫のように触れたくなって、でもその右手は何もできずに俺の隣で揺れる。



「どうしたの?綱吉」



彼女、なまえはふわりと微笑んで俺に問いかけた。こつこつと、軽いヒールの音が耳に入る。十年前、ヒールの高い靴は嫌いだ、なんて言ってたのに。



「ん、なんでもないよ」



ほんとうに、なんでもなさそうに答える。俺の右手は、汚れているから。右手だけじゃない、すべてが、汚れているから。まっしろななまえを汚してしまうから。



「嘘、最近元気ないよ」
「ほんとになんでもないって。心配性だな」



なまえはまだ怪訝そうな顔をして、そんななまえから顔をそらすように顔を前に向けた。



「綱吉、ちょっとストップ」



と言うとなまえは歩くのを止めた。俺も少し遅れて立ち止まる。小さく音を鳴らしながら俺のところに近づいてきて、正面に立った。小柄ななまえはヒールを履いてもまだ俺より小さい(俺より大きくなられても困るけど)



「!」



いきなり、なんの前触れもなしになまえが俺に抱きついてきた。
俺は、抱きしめ返せない。



「つなよし、」
「‥‥」
「だいすき」
「‥‥うん」
「綱吉は?」
「すきだよ、あいしてる、でも、俺は、(汚れてる、から)」
「‥‥うん」



なまえが、愛しい。
だから、汚したくない。
そっと、#name_2#の肩を掴んで俺から離そうとする、けどなまえは俺を抱きしめる腕に少しだけ力をこめた。
「、なまえ」
「綱吉、すき、だいすき、あいしてる、」
「‥‥うん」
どうしようもなく愛しくて、汚れた右手は、体は、なまえを、求めた。




ちしま
(まだ10年後が不確定だったとき)