あと5日

のんびりと時間をかけて家中の掃除をした後に飲むキャラメルマキアートは最高だ、幸せだなあとお供のエンゼルパイを頬張る。
荒れ放題だった庭だけど、昨日一昨日と綺麗に手入れされた幸村くんの庭を見たら、なんというか、やるぞー!みたいな妙なやる気がむくむくとわいてきて、午後は庭掃除をしようと思ったんだけど、あれ、麦わら帽子はどこにしまったっけ。 前途多難である。


「ひゃわっわわわわ」


前言撤回、も、無理、こわい、虫こわい。団子虫すら怖い。あいつらオームじゃん。ミニオームじゃん。なんであんなに大量にいるんだよ、もうむり庭いじりなんてわたしには高度すぎたのだ、こたろうがわたしのまわりをぐるぐる回って楽しそうにしっぽを振るけれど、それどころじゃない。


で、電話、したら迷惑かな、めっきり着信の少なくなった携帯の通話ボタンを押すとコール音が数回、いつもの、柔らかな声が鼓膜を震わせる。


「ゆ、幸村くん」
「はるのさん、どうかしたの?」
「むむむむむし、むしが、!」
「うん、落ち着こうか」
「あ、あのね、お庭、お庭をねっ、」


君の丁寧な道順の説明のせいで2時間かかったんだけどと汗を拭いつつ幸村くん初ごらいてーん!ほんとはね、最短ルートで30分かからないはずなんだけどね、。幸村くんが今から行くから道順教えてくれるかなとわざわざ来てくれるとのことで、申し訳ないとは思いつつもお言葉に甘えることにした。


「大丈夫だよ、ほら、かわいいものだよ」
「やややややめ」
「はるのさんておもしろいね」


どこがだ!
やっと虫を遠ざけてくれた幸村くんをじとめでにらむとなんでもないようなふりをして土いじりを再開する。かなわないなあ。
それからお茶をして、いろんなお話を聞いて、でもすぐに夕暮れで、


「それじゃ、お邪魔しました」
「ほんっとうにありがとうございました、!なんとお礼を言ったらいいか、」
「いいよ、俺が好きで来たんだから」


こういう、幸村くんのなんでもないような雰囲気でひとを気遣えるところ、すごいなあと思う。何かお礼を、と思ったんだけどあいにく家には何もなくて、申し訳なくなる。幸村くんは少し考え込むように顎に手をやったあと、


「それじゃ、今度、ケーキが食べたいな」
「今度、?」
「そう、今度、というか明日」


にっこりと笑う幸村くん、てことは、明日も、会いに行っても、いいってこと、だよね、?
ここで平気だよ、おやすみと言うと幸村くんはぽすんとわたしのあたまに手のひらを置いた。う、わあ、なんか照れる。


でもなかなか幸村くんが歩きださないからどうしてかと思っていたら困ったように笑って、これじゃ帰れないよと言った、なんでかってわたしが幸村くんの服の裾をつまんでいたからだった。自分でも無意識の行動だったので慌てて手を離す。ご、ごめんね、おやすみ、と手を振り笑うとおやすみ、と幸村くんの背中は夕闇に溶け込んでいった。





20121113