目覚めたらたんぽぽ



「いつでも寝てますね」
「‥‥、‥‥お、おはよう?」



屋上だってわたしの守備範囲(?)ってやつだ。友達にちょっと屋上行ってくると告げればまたお昼寝かというようにおざなりに手を振られた。行ってきまーす。5限までには戻らなくちゃね、携帯のアラームもかけたし、準備はおっけー。屋上はお昼寝にはちょっと、いやかーなーり、寒いから、ブランケットを準備しておくことを忘れてはいけない。今日はめずらしく日が照っていて、気温もそこまで低くない。お昼寝には最適である。
コンクリートだから底冷えするなあと思ったのに、あれ、いつの間にかわたしは横になっていたらしい。最初は体育座りのまま寝てた気がするんだけどなあ。不思議だ。あ、それでね、上半身とこに見知らぬブレザーがひいてあって、あちゃ、汚しちゃったかな、と心配になるよりも先にあれこれだれのかな、‥まあだれのでも、いいかなあ‥。



「よくないよね!」



誰だこんなやさしいことしてくれたの!もう一度まどろみに身をゆだねようと倒れこんだ体を無理やり起こして(ナイスわたしのふっきん)、周りを見渡してみると、‥‥冒頭に戻るわけです。
ひよしくんはひややかにわたしを一瞥した。



「も、もしかして、このブレザー」
「もしかしなくても俺のです」



ひいいいわたし何やってんだ人さまのブレザーを下敷きにのうのうとお昼寝ぶっこいてるなんて!土下座したほうがいいんですかねひよしくん。ぱんぱんとほこりとか砂を払って、ううん、これで落ちてるかな、下敷きにしてしまったせいでしわになってしまった。ワイシャツの上に指定のセーターをはおったひよしくんはやっぱり寒そうで、クリーニングとか出さなくちゃ、と申し出ようとすると「‥‥」ひよしくんは何も言わずにブレザーを手にとり、ためらいなく羽織った。



「‥‥なんですか」
「えっと、あの、」
「‥‥気にしないでください。屋上に来てみたら誰かさんがつめたいコンクリートに頭を打ち付けるところだったので加害者だと思われる前にひいておこうと思っただけですから」




正直に言うと早口すぎて話の半分もわからなかったんだけど、とにかく、このブレザーのおかげでわたしは気持ちよく惰眠をむさぼることができたということなのである。というわけで、



「いざゆかん喫茶店〜」



ひよしくんは無言である。仏頂面をひっさげてひよしくんはわたしの前に腰を下ろした。お礼といってはなんだけど、おねーさんがおごらせていただきました。よかった2月はいったばっかりで!わたしはいつものバニラフラペチーノを頼むことにして、ひよしくんは抹茶のフラペチーノを頼んだ。お互いコーヒー系は頼まなかった。スタバなのに。友達と行くと、スタバにアイスティーがあるのは邪道だよって言ってたっけ。フラペチーノはセーフかなあ、あ、おいしいー。



あのあと、気付いたら5限が終わる時間で、なんとひよしくんまでさぼらせてしまったらしい。「死なれても後味悪いですから」って言われたけれど、申し訳ないやらありがたいやら。平謝りしながら今日の部活の有無を確認して運よくミーティングだけであるという情報をキャッチしたので放課後むりやりひっぱってきた次第であります。はい。うーん、それにしてもバニラおいしいなあ、あ、今度はキャラメルにしようかなー。



「ころころ変わる人ですね」
「え、何がー? あ、飲む?」



わたしの差し出したバニラフラペチーノを一瞥して、甘ったるそうなので遠慮しときます、と断られてしまった。そうかな、あんまり甘くないよー。あ、でも抹茶は苦いよね。いつも思うけど。



「これが苦いなんてあなたの舌を心配しますよ」



じゅるるとお互い無言でフラペチーノを吸う。



「‥‥っーいたいー、」
「‥‥」
「あは、おんなじ」



冷たさのせいでキーンときて、あたまを抑えると同じタイミングでひよしくんもおでこを抑えたのでつい噴き出してしまった。おっと、いけないいけない。ひよしくんがふいっと窓の外へ向いてしまった。外はもう日が沈みかけていた。2月といっても、夜が来るのは早いのだ。



「‥‥ごちそうさまでした」
「いえいえ、こちらこそありがとう、そしてごめんなさい」



5限さぼらせちゃって。ほっといてくれてもよかったのに、律儀だなあひよしくんは。駅までの帰り道、ひよしくんの向こう側をバイクがびゅうんと通り過ぎて行った。ひよしくんといると、沈黙も苦じゃないな。むしろ心地よいから、こんなふうに歩いていてもらくちん。ときどき、「‥‥転びますよ」ってため息も聞こえるけど。転びませんー。だいじょうぶですー。
何を話すわけでもなく、ただぼんやりと歩いているだけなのに、満ち足りてる気分になるのって不思議だなあ。ひよしくんだと特に。




▼続く

感想など


ちしま