いつものお気に入り


わたしのお気に入りのおひるね場所は図書館のある一角のテーブルなんだけどね、あんまり人気のない本の種類なのか人は数えるほどしか通らないし、ここからだとカウンターも見えづらいし、おひるねにいそしむにはベストポジションなわけです。今日も今日とて、帰宅前の貴重な睡眠時間を確保しにやってきました。



睡眠部でもつくろうかな、なんて本気で思ってるけど。別にね、夜更かししてるわけじゃないのよ、うん。授業中とか、休み時間とか、人のしゃべり声とか空気とか、あったほうが安心して眠れることに気づいてからは学校で眠ることが多くなってきた。授業はほら、あんまり寝ないようにはしているんだけどどうしても我慢できないこともあるわけで。



あ、それでね、わたしの隣の席はあくたがわくんなんだけど、彼もわたしとおなじくよく眠る人みたいで、常にねむそーうにしてる。二人なかよくつっぷしている姿はもう恒例になってしまったみたいで先生にしょっちゅうふたり一緒に指されるようになっちゃった。おたがい慌てまくり。この前なんてふたりしておでこ赤かったし。恥ずかしかったっけー。



自分でもベストな寝方を見つけるためにごそごそ腕を組みかえたりつっぷす場所を変えてみたり試行錯誤を繰り返して、ようやくちょうどいい場所を見つけた。この寝方がいいみたい。それでは、おやすみなさーい!携帯をバイブがなるようにしておいたから、振動で目が覚めるはずだろう。たぶん。



「うあ」



携帯がふとももの上で震える。えっと、ご、5時か‥。まだ眠れるかなあ。もうちょっと、寝ていたい、なあ。もういちど突っ伏そうとしびれた腕を伸ばそうと思って、ううんとうなると、隣に人がいたことに気がついた。いつもならわたしの隣に誰かが座るなんてことはめったにないのに窓際の座席が男子の制服によって埋められている。ノリのきいたスラックスからたどると、「ひ、ひよしくん?」でしたっけ。たしか、あくたがわくん、テニス部の後輩だと言っていたような。何度か話したことはあっても、事務的な連絡みたいなものだったからあんまり関わりはなかったんだっけ。



文庫本を開いて眼鏡をかけた彼、ひよしくんは「起きたんですか」とそれはもうクールな声でわたしに言った。おはようございます、と言わなくちゃいけないような気がして(実際そんなわけはないんだけど)あいさつをするとふん、と鼻を鳴らされた。



「腕、下ろしたらどうですか」



あ、そうですね。伸びをしたままの体勢で固まっていたわたしはそれに従って腕を下ろす。うぐぐ、なんだかおこられてるみたい、あ、あきれられてるのかな。図書館で寝てんじゃねーよって「そんなこと思ってないですよ、こんなところでよく寝られますねとは思いますけど」それってあきれてるってことじゃないですかね。ひよしくんはぱたんと文庫本を閉じると、そういえば呼び出しされてたんでしたと席を立ってしまった。「い、行ってらっしゃいー」彼を見送ると、瞬間、夕暮れの日差しがわたしに直撃する。わわわー、まぶしい、!もうひとねむり、しようにも日差しが邪魔をして目がちかちかする。わたし、覚醒。



「あれ、もしかして、」



ひよしくん、日差し、遮ってくれてた?
気づいたら口が開いてたみたいでちょっとからから。口閉めたらどうですか、なんてからかわれそうだなあと思って、その相手がひよしくんで想像してしまった自分がひどく単純だと思った。



▼続く

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ちしま