コマさんと出会う

 クラスメイトのケータくんは、いつも、ソフトクリームみたいなへんなおばけと、尻尾がふたつにわかれている猫さんとおしゃべりをしている。クマとかカンチとか、フミちゃんに見つからないように、こっそりと。でもね、わたし知ってるんだ。ケータくんがふつうの小学生じゃないってこと。その、へんな時計があれば、おばけのこと見えるんでしょ?ちょっとそれって不便だよね。クラスメイトの様子がおかしいとき、いつもこれって妖怪のせいだよ!って慌ててるけど、もう、なにをいまさら!ってかんじ。気づいてたけどなにもしなかったわたしもわたしだけど。だって、百害あって一利なしだもん!あ、いまあたまのいいこと言いましたわたし!


「も、もんげー!」


 ……犬か。犬なのか?買い物からの帰り道、本屋さんでも寄ろうかと駅前に立ち寄ってみると、へんないきものがエスカレータの前でおろおろしている。犬にみえるけれど二本足で立っているし、なにより見覚えのあるようなないような、青白い炎のようなものがおでこからみえる。あ、そうだ、ケータくんと一緒にいる猫さんの尻尾に似てるんだ。


「どうしたの」
「も、もんげぇー!!!お、おねーさん、オラが見えるズラぁ…?」


 聞きなれない方言を話す犬さんは、自分はコマさんだと名乗ってくれた。おねーさんなんて言われてもわたしはただの小学生なので、ななくさだと名乗ると、犬さんの名前はコマさんだと教えてくれた。コマさん。かわいい!


「オラ、コマじろうと待ち合わせしてたズラ、だけど流されてしまってはぐれてしまったズラぁ…」


コマさんはどうやら田舎のほうから出てきた狛犬さんらしい。にこりんぼうおこりんぼうみたいなものだろうか。あっアウトかなこれ。聞くところによると、コマじろうさんは、コマさんの弟で、外見はコマさんに似ているみたいだけど、大きさも同じくらいということは、この人ごみの中で探すのは大変だろうなあ。


「じゃあ、わたし、手伝ってあげるよー!」
「ほんとズラー?!ありがとうズラー!うれしいズラー!」


 抱きしめたい。抱きしめてるけど。いいなあ、こんなお友達がいたら、毎日楽しいだろうなあ。おうちに連れて帰ってしまいたい。妖怪って、もっとかわいくなくて、へんなやつばっかりかと思ってたけど、こんなかわいい妖怪なら大歓迎だ。
コマさんとお話しながら歩いていると、他の人たちにコマさんは見えないから、わたしは独り言しゃべってるみたいに思われてるみたいで、すれ違う大人がちらちらとこちらを見てくるけれど、まあ、これも日常茶飯事だから、気にしないのがいちばんなのだ。


「おーい、にいちゃあんー!」
「こ、コマじろうー!会いたかったズラぁー!」


 駅前のファーストフード店の前を通り過ぎる時、店内から飛び出してきたカフェオレ色の塊。こ、これがコマじろうさん・・・!なんというかわいさ。もふもふに挟まれ、なんという楽園であろうか。


「あっ、コマじろうダメだよ勝手に飛び出したら!、ってはるのさん!?」
「あれ、ケータくん!」


 両手にコマさんとコマじろうを連れたわたしをみて、ケータくんはめちゃくちゃ慌てて白いのと猫さんに話しかけてる。聞こえてるよ!


「ていうかなんではるのさん普通に見えてんの!?」
「そんなこともあるんでウィスねぇー、ってウィス?! ワタクシたちも見えるんでウィス?!」
「いつも見てたよー」
「ええええええ嘘でしょはるのさん・・・教えてよ!」
「だから言ったニャン! あの子とよく目があうって! ケータが信じてくれないからこういうややこしいことになるニャン!」


 いつものことながら、大変にぎやかな3人はお互いのせいにしあってまた喧嘩をし始める。わたし、見えてたから日常茶飯事といえばそうなんだけど。無事弟と再開を果たしたコマさんは、さっきの不安そうな表情はどこへやら、弟の前だからかちょっぴりきりっとした表情でわたしの腕の中に納まっている。コマじろうもお兄ちゃんに会えたからか、にこにこしていて、とてもかわいい。


「二人とも、どこに行く予定だったの?」
「・・・忘れちまったズラ」
「もう、兄ちゃん、ソフトクリーム食べたいって言ってたズラ」
「ソフトクリームね、おいしいお店知ってるんだ、行ってみる?」


 あっち3人の言い争いは終わりそうにもなかったので、コマさんとコマじろうを連れて、わたしたちはお散歩に行くことにしたのだった。






続くかもしれないし続かないかもしれない