クラスメイト

 せんぱいせんぱい、と語尾にハートマークつけながらひとつ上の春野先輩を追いかける桜沢くんは、かわいらしい見た目もあいまって、上級生の女子からも同級生からも可愛がられている。同性にやっかまれないのかしらと思っても、バスケ部ではその小柄な体格をいかして俊敏なボールさばきでチームの勝利に貢献してるし、クラスメイトとも仲良くしてるし、心配なんてするのも無駄なことがわかった。


 そんな桜沢くんと隣の席になったのは5分前の席替えから。黒板向かって左側、窓際が桜沢くん、その隣、通路側が私。


「わぁー、はるのさんよろしくねぇ!となりはじめてだよね」
「そうだよねえー、よろしく!」


 窓際いいなあ、譲らないよー!なんて軽口叩けるくらいのクラスメイトではあるけれど、なんだか、隣に座るの、苦しい。桜沢くん、きらきらしすぎて。


 桜沢くんのきらきらのもと、それはきっと恋とか愛とかそういうちょっと言ってて恥ずかしいけれど、そういうものでできているんじゃないかと思う。授業中、ふと窓際に視線をやると、桜沢くんが、シャーペンを回しながらじっとグラウンドを見つめている。心ここに在らず。視線の先を辿れば、あのジャージは2年生だ、そして、きっと、春野先輩がいるはず。先輩を見つめる桜沢くんの視線の熱っぽいこと。かわいらしい見た目も相まって、少女漫画みたいだ。春野先輩はおっとりとした外見の人で、桜沢くんのどストレートな告白にわたわたしているのを何度か見かけたことがあった。もうくっついちゃえよ!と思うんだけど、きっとまわりもそう思ってるんだろうけど、なかなか、カップル成立とはならないようだった。そりゃそうか、フィーリングが大事だもの。なんちゃってー。彼氏いない歴いこーる年齢だけど何か。


「はるのさんさー、さっきボクのことじーっと見てたでしょぉ」


HRも終わり、バイトに行こうとバッグにペンケースをしまっていると、突然、桜沢くんの声が降ってきた。かしゃーん!とバッグからこぼれ落ちたペンケースが音を立てる。腰を屈めて赤ペンやら青ペンやらを拾ってくれる桜沢くんは優しい。


「はい、」
「あ、ありがとう、き、気付いてた?」


ごめん、そんなに見つめてたつもりはなかったんだけど!桜沢くんはけらけらと笑う。かわいい。同い年の男の子とは、思えないような、クラスメイトの男子とはあきらかに違うきらきらに目がくらみそうになる。眩しい。


「あれだけ熱視線送られたらねー!」
「ぶっ」


 穴があったら入りたい。いや、誤解なんです桜沢くん。私は別に、そういうつもりでは。春野先輩、見てたから。そう伝えると、桜沢くんはかすかに頬を染める。ああ、春野先輩のこと、ほんとうに好きなのね。春野先輩の前では余裕ぶってるけど、なんだ、年相応の男の子じゃないか。春野先輩、かわいいよね、なんて話を振ったら「そうなのそうなの!」と身を乗り出してくる。桜沢くんの話を聞いてると、恋ってなかなか素敵なものかもしれないなんて思えてくるから不思議。


「あはは、はるのさんおもしろいねえ!」
「いやいや、こんなのに好かれても困るよね!あはは」
「えっ、なんでそんなこというのー? はるのさん、こんなにかわいいのに!」


 だめだよ、女の子が私なんかとか言ったら!
 私の口は、笑った形のまま、音は出ない。桜沢くんは、あ、部活行かなくちゃー!と風みたいに教室を去っていった。何、今の殺し文句は。桜沢くんの好きなひとは私じゃなくて、春野先輩、春野先輩、春野先輩。よくこんな天然たらしと一緒にいられると感心しつつ、春野先輩は実は超鈍感なんじゃないか疑惑が浮上する初夏の一日だった。あー、すきなひとほしい。

2015.03.23 ちしま