モンブラン

ちょっと薄暗い喫茶店で、わたしとリョーマくんは向かい合って座っている。わたしはココアを、リョーマくんはコーヒー。暖かなココアにはホイップクリームがちょこんと乗っかっていて、ほろ苦いココアをほんのりあまくしてくれる。のに、わたしはなかなかココアを飲むことができない。リョーマくんはまんまるいおっきな目で、わたしのことをじいっと見つめる。



「‥‥飲まないの?」



リョーマくんはちょっと首をかしげてわたしに尋ねた。「の、飲むよ、!」カップを手にとって、口に運ぼうとするのだけれど、リョーマくんの視線が気になって、手元がおぼつかない。わ、震えてきそうだ。ひとくち、ココアを口に含むと、‥‥苦いんだか甘いんだかよくわからない。口の中がばかになってしまったみたい。原因はリョーマくんにあるのだけれど。



「ついてる」
「へ」



リョーマくんがナフキンを一枚取って、その手がこっちに伸びてくる。えっ、なにこれ、わ、近い、と思った瞬間、口元をやさしくナフキンでこすられる。「はい、取れたよ」不敵に笑うリョーマくんに対して、ぎゅーんと心臓がもってかれていくような感覚に陥るわたし。なんでそう意地悪そうな顔でわらうの!



「あんたっておもしろいよね、反応が」



だからついいじめたくなる、リョーマくんは涼しい顔してコーヒーを啜った。ぶわーっと血液が頭にのぼっていくのが自分でもわかった。リョーマくんっは、いじわる、だ。知ってたけど、知ってたけど、こんな頻繁にどっきりをやられてたらわたしの心臓がもたないわけですよ?わかってますかリョーマくん?



「‥‥ケーキ、たべる?」



ココアとセットのいちごのショートケーキをひとくち、フォークで切り取って、リョーマくんにさしだしてみる。ど、どうだ、!ちょっとは照れてみろ、!リョーマくんはきょとん、として一瞬目をまんまるくさせたけれど、すぐにためらうことなくケーキをさらっていった。ええええ、ちょっとは照れるとか恥じらうとか、!してほしかったのに!



「‥‥おかえし、いる?」



‥‥あーん、て、しろって、いうことですか、。フォークの上のモンブランは魅力的で、それに、わたしだってそういうことできるんだぜ、!っていうのをアピールするために、やられる側ってこんなに恥ずかしいんだ、とどぎまぎしながら、勇気をだして口を近づけると、ひょいっとモンブランが消えた。



「あーげない」



あわあわするわたしをチェシャ猫のような瞳で見つめるリョーマくんには一生かなうことはないんだろうなと思いながらすこしぬるくなったココアを飲み干すのでした。




リクありがとうございました!
20110326 ちしま