ソルトのドルチェ


激ダサだぜ、と、彼の決め台詞みたいなそれを真似してつぶやいてみたらほんとに激ダサで、腹がたって、抱きしめていた枕をぎゅうぎゅうとつぶして丸めて部屋の端っこにぶん投げた。ぺしょりと枕はうなだれる。



今日は何の日か知ってるのかな、もしかして忘れてるのかな、まあ亮のことだから、忘れていても不思議ではない。そもそも何ヶ月記念だとかそんなものは両手じゃたりないほどだから、それでも節目節目にはちょっと豪華な手料理なんて作ってみたりして、亮もそれをみてもうそんなにたったのか、なんて目を細めて笑ったり。それにしても今何時だと思ってるんだ、日付が変わるまであと1時間。
携帯が震える。亮かも!なんて期待は泡のように消える。ディスプレイに表示されたのは別な名前だった。



「もしもし!」
「俺様だ。ご機嫌斜めだな」
「俺様ってどなたさまですかー俺様詐欺ならよそでどうぞー」



俺様もとい跡部が鼻で笑う。何よ何よ、今日のわたしは不機嫌なんですー。半径5キロ以内にいるやつは爆発しちゃうくらい不機嫌なんですー。冷めきった料理たちをどうしてくれようかと、テーブルへ向かった。



「今日何の日か知ってるか?」
「はあ?何、喧嘩売ってるの?」
「そう突っかかるな。宍戸のやつ、さっきまで接待で携帯も見られなかったんだ。悪いな、俺が無理やり連れて行った。お前との記念日忘れてるわけじゃねえから怒らないでやってくれ」
「怒ってないわよっ、でっ?」
「さっきリムジンを出したから、あと5分もせずに着くだろうよ」
「‥‥あっそ」
「商談はうまくいった。あいつのおかげだ。礼言っといてくれ」
「‥‥、‥‥料理温め直したいからちょっと遠回りして帰るように運転手さんに伝えてくれる?」
「ハッ、素直じゃねーな、言っとくよ」



じゃーな、とぷつんと切られた携帯から、つー、つー、と無機質な音がこぼれる。電話の主にほんのちょっとだけ感謝しつつ、ひとつひとつのお皿にラップをかけて、レンジにかける。作りたてよりは味は落ちてしまうけど、こればっかりはしょうがない。じりじりとターンテーブルが回る様子を見つめ、そういえば電子レンジは電磁波が飛んでるから頭に良くないとかなんとかお父さんが言ってたっけ、ほんとかどうかは知らないけれど。



そういえば、亮に初めて作った料理はなんだったっけ、とぼんやり思い出を探る。レモンの塩漬けだ、たぶん。高校生のとき、さしいれに持って行こうと思って張り切って作ったものの、砂糖をいれるべきところを塩と間違えてしまったという恐ろしい代物だった。亮は涙目になりながらかじってくれたんだっけ。それから、亮に告白されて付き合うようになって、大学は同じところに奇跡的に受かって、テニス部のメンツとも仲良くしながら社会人になって、一人暮らししてる亮の食生活が不安だったから、ちょくちょくごはんを作るようになって、「うめえ!」って笑う亮の顔がみたくてごはん作るの練習したんだっけなあ。



たんたんたんたんたん、あ、これ、きっと亮の足音。きっとエレベーター来るの待ち切れなかったんだろうなあ。テーブルセッティングよし、お部屋もよし、かわいい彼女がお出迎えでもしてあげますか、玄関が開くまで、3、2、1、





ソルトのドルチェ



▼宍戸リクの方へ*
 跡部がでしゃばってますが宍戸夢だといいはります‥うう
 リクありがとうございました!

 ちしま