つないで 白石
白石くんは、わたしのことかわいいかわいいって言ってくれるけど、毎朝鏡を見るたびにためいきついちゃうわたしとしてはとてもじゃないけどしんじられないわけです。すなおにうけとれないじぶんもきらいきらい。
となりを歩くイケメンを見上げれば、「ん?」、ふわりとやわらかく笑ってくれる。ずっきゅん。これだけでごはん3杯いけちゃいます。こんなすてきな人のとなり歩いてるのが、わたしなんかでいいのかなあ。だってだってほら、「うっわ何あのイケメン」「まじかっこいーんですけどー」ほらほら、町行くギャルがみんなこっちみてるよ。白石くんのことだよ。きっとわたしなんてセルフ石ころ帽子被ってるみたいなもんなんだろう。
ショーウィンドウに映る白石くんはとってもとってもかっこよくてすてきなのに、となりのわたしはとってもとってもちんちくりんで、他の人からみたらやっぱりちんちくりんなんだろうなって思って、かってにひとりでしょんぼりしてしまう。せっかくのデートなのに、こういうのよくないと思いつつ、そして勝手にひとりで落ち込んでるだけなんてなんてめんどくさい女だろうと思いつつ。部活だって、ひさしぶりのお休みなんだもん、楽しまなくちゃもったいない!ネガティブあっちいけ!
「あ、芸人さんおるで」
「おお、?
「あっちやであっち」
「お、おおー、あ、ほんとだ!見てこ見てこ!」
休日のせいか、人がものすごく多くって、むこうのほうに行くまでに、人ごみをかき分けて行かなくちゃいけないみたいだった。迷子にならないように、と、つながれた手は、わたしの手をすっぽりと覆ってしまう。わたしのだいすきな手。毒手だなんていわれてるけど。もし、このまま、手をはなしたら、白石くん、わたしのこと、みつけてくれるのかなあ。
ゆるりと、手の力を抜いてみる。
「ななくさ」
離れることはなく、力強く、握り直される手。
つなぎ直された手をたどれば、めずらしく真顔な白石くんがいた。人ごみのなか、立ち止まったわたしたちを、迷惑そうな顔をして人が避けてゆく。
「はなさんで」
ぎゅうっともう一度力をこめて握られて、わたしの骨がぽきぽき鳴りそうに軋む。それはもういたいくらいに。
「お、!ジャグリングしとるで!」とはしゃぐ白石くんの表情には、先ほどの台詞なんてこれっぽっちも覚えてませんといったような、いつもの白石くんの笑顔があった。人ごみをかきわける白石くんの後に続く。すこしだけ軽やかになった足取りで。
つないで
▼20110204 ちしま
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