狐のお面と林檎飴 仁王


 どれがいい、どれでも買っちゃる、とお面屋さんで笑う仁王は、何考えてるのかわからない。いちばん上の段にある狐のお面をとると、似合うじゃろ、と被せて笑った。
 

 銀糸の髪色の彼は、狐のお面を好んだ。不思議とそれが似合う。浴衣を着た彼のうなじがとてもせくしーだ。だけどそれは、頭の後ろにかけられた狐のお面で隠れてしまっている。お面のはしから括られた銀糸がちょこんと飛び足していた。そして口元のほくろ、いつも触れたくなるんだけど、いつもがまんしてる。



 仁王が、これがお似合いじゃ、と笑ってわたしに被せたそれは日曜日の朝にやってる女の子が変身するアニメの主人公、ではなく主人公がつれているふわふわしたへんな生き物のお面だった。これが似合うってどういうことー、とふくれてみせればかわええってことじゃよとはぐらかされた。仁王にならって、ひもだけ首のところにひっかけて、お面は後ろを向かせておく。



「似てる」
「何が」
「お面と、仁王」



 出店が並んでいるために片側通行、わたしは仁王の後ろを歩いていく。すぐに迷子になるんじゃからとひかれた右手がほんのすこし、あつい。狐のお面と目が合った。なんか、こいつ、きらいだ。にょいーんと狐をひっぱって、離す。ぱしーん!「あいた」



「どうかしたの、あ、わたし林檎飴食べたい!」



 ちょっとばかり向こうのほうの出店にめあごんりの旗を発見。仁王の袖を引っ張って、人ごみをかきわける。仁王と歩く初めての夏祭りは通い慣れた夏祭りとまったく別物のような気がして不思議だ。まるで異世界にいるみたい。



 おじさんからりんごあめをひとつ受け取って、「姉ちゃんイケメン連れとんなあ!おまけつけちゃおう!」「ほんとにー!おじさんのがイケメン!」「姉ちゃんうまいな!もういっぽんおまけだ!」ってなわけでりんごあめ3本いただきました。わーい。いっぽんは仁王にあげて、わたしは両手に花ならぬりんごあめ。しあわせ。



「うれしそうに食べるのう」
「だってうれしいもん」



くしゃり、仁王のおおきな手がわたしのあたまを撫でる。撫でるというよりはかきまわすような荒さに、せっかくふわふわ〜!にした髪の毛をぐしゃぐしゃにされた。あああ、わたしの気合!



「ちょっとー」
「だってかわいんじゃもん」



あ、。
りんごあめ、おとしちゃった。



▼20101023
 季節感なんてまるむしだっ(二回目)ちしま