流れ星を私は捕まえた 幸村

 ゆきむらくん、たいへんなことになりました。ああ、でも、あんまりたいへんでもないかもしれません。すくなくとも、わたしにとってはたいへんなことになってしまったのです。字がきたないこと、ひらがなばっかりになってしまうことはゆるしてください、今、わたしはわけあって右手しかつかえないじょうきょうにいるのです。とても、文字が書きづらいです。ゆきむらくんは読みづらいでしょうね、ごめんなさい。
 どうしても、ゆきむらくんに手紙をかかなくちゃ、と思ったのです。わたしにも、わかりません。メールだって電話だって、なんでもよかったのですが、なぜか、手紙を書こうと思ったの。ほんとうに、ふしぎです。
 ゆきむらくん、ゆきむらくんとすごした3年間、わたしはとてもしあわせでした。はじめて一緒のクラスになって、となりの席になったとき、ゆきむらくんは体育のジャージを着ていたので、女の子がすわっているのかと思って話しかけてしまったことがありました。ごめんなさい。やなぎくんがくすくす笑っていたことを思い出します。でも、だって、ほんとうにきれいだったんだもの。あのときほど、自分が女の子に生まれたことを後悔したことはありません。笑ってください。
 それから、ゆきむらくんはテニス部に、わたしはマネージャーになって、テニス部のみんなと全国せいはを目指して、いっしょにたたかってきました、いっしょにたたかうなんていったら、おこがましいかもしれませんね、それでも、立海のテニスがだいすきなきもちは、だれにも負けないつもりでいます。ううん、立海のテニスというよりも、ゆきむらくんのテニスがすきでした。ゆきむらくんのプレイ、仕事もわすれてみとれてしまうくらい。よく先輩におこられたものです。ゆきむらくんのこと、すきになるまで、時間はかかりませんでした。恋に落ちるとはよくいったものです。なんて書いておきながら、いま、わたしのかおはまっかです。ゆきむらくんがいなくて、よかった。手紙にして、よかったと思います。
 いまもなお、ふしぎなのですが、ゆきむらくんは、わたしとつきあってくれるなんて、おもってもみませんでした。すきっていってくれて、すごくうれしかったんだよ。ありがとう。ゆきむらくんのおかげで、中学校生活が、きらきらして感じられました。毎日、楽しかった!それにね、ゆきむらくんがわたしをすきだっていってくれるから、わたし、わたしのこともすきになれた。じぶんのこと、だいきらいだったのに、ゆきむらくんパワーってすごいなあとしみじみ思います。
 ああ、思っていたよりもだいぶ長くなってしまいました。そして手紙にしても、いつもどおり、よくわからない話をしてしまいました。ゆるしてね。右手しかつかえないというのは不便なものですね。もう右手の裏側がまっくろになってしまいました。どうしてわたしの左手が使えないのか、書いてませんでしたね。実は、流れ星をつかまえたの。あ、いま、笑ったでしょう。
 夜、卒業するのがさみしくなって、泣いていたのです。恥ずかしいけれど。 昨日の夜は、星のきれいな夜でした。そうですね、「手の届くような」という表現がぴったりな夜空でした。みんなと、いっしょにいたい、もっとテニスを見ていたい、でも、それはもうかなわないのだなあと思っていたら、流れ星が、空をよぎったのです。思わず、わたしは手を伸ばしました。
 いっしゅん、目がくらんで、わたしは目を閉じました。真っ暗ななかに、きらきらひかる、何かがありました。おそるおそる、目を開けると、わたしの左手が、ぎゅうっとなにかを掴んでいたのです。まっくらやみに、わたしの左手がぼんやりとひかっていました。わたしは、流れ星を、掴んでしまったようなのです。まっくろくろすけをつかまえたメイちゃんみたいに、わたしはそのばで両手で流れ星をつかまえたまま、じたばたしてしまいました。これが、わたしのたいへんなこと、そのいちです。そのいち、ということはそのにもあるのです。流れ星がながれたそのしゅんかん、わたしのこころには、ゆきむらくんのかおが思い浮かびました。ひだりてのながれぼしをどうしたらいいのかわからなくって、にぎりしめたままだったのでそろそろ手がつかれてきました。えっと、たいへんなこと、そのにです、ゆきむらくん、ながれぼしに、ゆきむらくんとずっといっしょにいられますように、とおねがいしてしまったのです。きっと、願いがかなうまで、この流れ星は消えてはくれないのです。そのしょうこに、ゆきむらくんのことを考えるたびに左手がほんのりあったかくなります。
 手紙のとちゅうですが、流れ星を制服のポケットにしまいました。流れ星は消えなかったよ。ずっと握っていたせいで、左手がしびれてしまいました。よかった、消えちゃわなくて。制服のポケットが光っているのがみえるので、明日はハンカチに包んでいきたいとおもいます。そろそろ、手紙を終わりにしようと思います。その前に、ひとつだけ。ゆきむらくんて、流れ星に似てる。
 今日、いちばんにゆきむらくんに会って、この手紙を渡します。ゆきむらくんの、さいごのせいふく、見たらわたしはきっときゅんきゅんして何も言えなくなるだろうし、それに、ゆきむらくんと過ごせるさいごの中学校だから、泣いてしまうんだろうと思います。わらっていたいけど、むりだろうなあ。だから、今、思ってること、手紙に書きました。最初に、どうしてか手紙を書かなきゃと思ったって書いたけど、それはやっぱりゆきむらくんだからです。実はね、昨日のうちにテニス部のみんなにもお手紙書いたんだけど、ゆきむらくんの手紙だけ長くなっちゃって。言いたいこと、たくさんあるんだけど、ぜんぜん足りないね。書けないぶんは、直接言います。ちゃんと話せるか不安だけどね。
 はやく、ゆきむらくんにあいたいです。
 ずっと、いっしょにいられますように。
 

▼しおちゃんちの企画に提出!

ちしま