蜜める イヅル

 イヅルさんのうつむいたかおがすき。
 時折みせる、髪を耳にかける仕草、伏せられたまつげのながいこと、頬に落ちる影、細く長い指。どれもがわたしのこころをつかんで離さない。イヅルさんならば、どんなかおだって、仕草だって、好きなのだけど。うつむいたかおは、いっとうすき。
 書面に目を通し、くちびるに指をあてて考えるイヅルさんに、ほう、と見とれてしまう。どうしてあんなにいろっぽいんだろう。



「どうしたんだい じろじろみて」
「いえ、なにも」



 お仕事がたまっているらしく、書類に目を落とすイヅルさんのななめむかいで、わたしはのんきに読書にいそしんで、いるわけではなくこうしてイヅルさんのおかおを拝見しているわけで。市丸隊長が残したお仕事は、ふだんの倍以上あるはずだ。隊長はどこで遊んでらっしゃるのかしら。あの人はいつもふらふらと、どこかへ行ってしまうから、そのぶんイヅルさんにお仕事がまわってくるわけで、そのへん、隊長適当ですよね。お仕事お手伝いしましょうか、と言ってもイヅルさんに「きみはゆっくりしていて」とやんわりとことわられてしまう。せめておとなしくしていようと本を広げたけれど、イヅルさんが気になって正直読書どころじゃないわけです。はい。わたしの視線に気付いた、というか気づかないわけがないだろうイヅルさんが、ペンを止めてわたしを見、髪をかきあげる。きゅん。



「そんなにみられると緊張してしまう」
「なぜ」
「なぜ って、それは」



 すきなひとにみつめられてきんちょうせずにいられるわけがないだろう、と、うすく笑って、イヅルさんはわたしの頬に手を伸ばした。思わず首をすくめてしまう。イヅルさんの手、すきだなあ。
 髪を梳かれて、唇を落とされて、イヅルさんの手がわたしの頬をなぞる。顔が近いせいでわたしは息ができない。こんなはずじゃ、なかったのに、!



「イヅルさん、おしごとは」
「だいじょうぶ」



 くるしまぎれのひとことは、さらりとかわされてしまう。何がだいじょうぶなのかはわからないけれど、とにかく後頭部にまわってきたイヅルさんの手のせいで逃げることはできない。ひとつ、ふたつ、ちいさなくちづけをして、みっつ、よっつ、ふかくなる。くちづけの合間にちらりとイヅルさんを盗み見れば、「め、閉じてください、恥ずかしいから」わたしだって、はずかしいんですよ、イヅルさん。




蜜める


ちしま