クリームソーダ 壇

▼成長壇くん




壇くんを見上げている、だと‥!なんてどこかの漫画のようなリアクションをとってしまったわたしは首をいつもの位置に戻した。胸板しか見えねえ‥だと‥!おいリアクションこれ二回目だぞ。終電間近の帰り道、駅のホームで電車を待っていたら「先輩」と声を掛けられて、制服を着た青年に見覚えがあるようなないような、訝しげなわたしの視線に、彼は壇だと名乗った。壇くん? あの壇くん? サークルの飲み会で酔っぱらってたこともあって、これわたしの夢?幻覚?現実?よくわからない。足はあるから人間であることは確かなんだけれども。



「どちらさまですか」
「やだなあ先輩、僕です、壇ですよう!壇太一ですっ先輩っ」



わたしの知っている壇太一はもっとちっちゃくてダダダダーン!ってわたわたしてておっきなバンダナがいつも落ちてきちゃうようなうっかりさんな男の子だったはず。しかし今目の前にいるのはわたしを見降ろす長身のさわやかな男の子。え、ほんとうに壇くん?テニス部だった壇くん?



「お、おっきくなっちゃって‥!おかあさんうれしい!」



たまらず抱きつくと「わあああ先輩何するんですかあ」あわてるそぶりは見せるもののたくましくなったからだはびくともしなかった。中学生のころはわたしのほうがおっきかったからぎゅうってすると壇くんよろけっちゃってたのに、うわあああおっきくなったなあああ。小柄で華奢な男の子だったのに今ではすっかりおとなのおとこのひとだ。



「先輩恥ずかしいですっ」
「まあまあよいではないか壇くん。あ、そういえば阿久津と連絡取ってる?」
「はいっ、先輩、ときどきメールくれるです」



なん‥だ(省略されました)阿久津のやつ、わたしからのメールには返信しないくせに壇くんにはメールするのか。あいつ壇くんだいすきだもんなしょうがないよな。うんしょうがない。もうおいしいモンブラン発見してメール送るのやめてやる。おいしいモンブラン食べ逃しても知らないんだからね!モン友、つまりモンブラン友の会は解散!たった今解散!こんな会があることは阿久津は知らないけど。会員わたしと阿久津だけだけど。
ホームへ滑り込んできた電車に乗り込む。ラッキーなことにふたり並んで座ることができた。



「先輩、いつもこんなに遅いですか?」
「今日はサークルだったからねえ。いつもはもっと早いよ。壇くんは?」
「僕は部活ですっ」



いっぱい練習しないと、とガッツポーズをする壇くんはとってもかわいらしい、かわいらしいなんて言ったら怒られちゃうかもしれないけど。壇くん頑張り屋さんだからなあ。中学生のころも、部員として入部してから、毎日残って練習してたし、今もこうやって練習の後も自主練がんばってるんだろうなあ。



「こんなにおそいのに、危ないですよう」
「あは、危なくないようーへいきへいき」
「あの、送りますっ」



なん(省略)壇くんの申し出はうれしいけれど、壇くんだってまだ学生なんだし、ましてや制服を着ている男の子を終電まで連れまわすことはできない。駅から近いから大丈夫だとやんわり断っても、壇くんは意外と頑固だった。どうしても送ると言って聞かないので、改札まででいいからねと念押ししてからの下車。ホームへの階段を下りていると、



「おっとー」
「うわあああ先輩大丈夫ですか」



ふらつく身体を支えてくれるのはやっぱり壇くんで、時の流れとは残酷なものだと酔いの残る頭で考えた。あれけっこうよっぱらってるのかわたし。そういえばわたし傘どうしたっけ、電車に忘れたかと思えば壇くんの手にはわたしのピンク色の傘が握られている。なんて出来た子。わたしを支えられるくらい、おっきくなったんだなあー。あの頃はラケバのほうが大きく見えたのに、今ではすっかり壇くんのほうが大きくなっている。



「ありがとね、もう帰れるから大丈夫」
「ほんとに大丈夫ですか、僕家まで送りますよっ、あっ、あの、変な意味でなくって、だ、だだだーん!」
「あはは、わかってるようー、壇くんに限ってそんな心配してないって、千石じゃあるまいし」



あはは、わたしは笑うけど、壇くんは笑ってない。壇くんはぐっと唇をかみしめた。お、おこらせちゃったのかなあ。次の言葉を探していると、



「せんぱい、」
「、はいっ」
「僕だって、男ですっ」



壇くんのさっきまでのやわらかな表情が消え、なんていうか、おとこ、の顔をしてた。わたしの知っている壇くんは影も見えない。なんだどうしたこれってまさか、



「好きです、先輩」
「だん、くん、」
「僕っ、年下だしっ、阿久津先輩みたいに頼りにならないこともわかってます、でも、昔より、身長っ、のびましたし、先輩が転んでも、助けられるですっ」



先輩のことが、大好きですっ。
顔を真っ赤にさせて、全身で想いを伝える壇くん、お酒のせいか告白のせいか、顔を真っ赤にさせたわたし。
返事の代わりに、壇くんの胸に飛び込んだ。



だだだだーん!




0527ちしま