ホップステップジャンプ! 宍戸

ししどー、と呼べばめんどくさがりつつも振り返ってくれる宍戸がすき。口は悪いけど根はやさしいもん。ぶっきらぼうだから誤解されやすいけど。友達との恋バナしてたらとき、「宍戸くんってこわそう」って子がいて、正直なところ、そのまま宍戸の良さに気付かないでほしいな、なんて思った。



「で、なんだよ、俺様を呼んだからにはそれなりの用事があるんだろうな」
「俺様って何、跡部みたいじゃん」



用事はないよ、呼んでみただけ、と笑えば小突かれた。痛くないんだけど、大げさにいたいーなんて言ってみたり。それでもきゅんとしちゃうから、この症状は末期だなあと思いました。まる。
宍戸がまた笑って、前を向いた。腕を頭の後ろで組みながら、椅子をぎっこんぎっこん揺らしている。椅子の後ろをひっぱってやろうかと思ったけれどこれで頭を打たれたら困るのでやめといたけど。



「〜♪」



暇になってしまった。鼻歌歌いながら次の授業の教科書を探すことにしよう。どこかなー、どこかなー、生物の教科書はどっこかなー。‥‥どっこかなー。



「あれー、ない」



ぎっこんぎっこ、椅子が止まって、宍戸が振り返る。ばかじゃねーの、という一言と一緒に。一言余計なんだよばか!今探してるんですう、と頬を膨らませて奥の奥を探すんだけど、あれれ、ほんとにないみたい。ロッカーにもなかったし、家に忘れてきたのかな、やらかした‥!



「今日教科書使うから忘れるなって先生言ってたよー。忘れたらプリントだって」
「えっまじで!」



恐ろしい情報を隣の席の子が教えてくれた。‥‥いっそ保健室に消えてしまおうかしら。あれ、宍戸が消えた。トイレかな。
授業開始まであと5分、誰かに借りに行こうか考えたものの、あっちゃんは体育だから教室にいないだろうし、みっちーは家庭科って言ってたかなあ。
まあ、なんとか、なるかなあー。教科書なくても。



「ん」



あきらめたらそこで試合終了だよ、って漫画のセリフを思い出して、他のクラスを回ってみようかと立ち上がろうとした矢先、ずいっと、目の前に探し求めていた生物の教科書が差しだされた。「宍戸?」いつもみたいに怒ってるような怒ってないような(きっと怒ってないんだろうけど)表情の宍戸がいた。これ、生物の教科書、宍戸のじゃないの?



「俺のじゃねえよ。トイレついでにテニス部のやつに借りてきた」



だから貸してやる。宍戸の手には生物の教科書が2冊あり、片方は宍戸自身の教科書でありもう片方は宍戸の言う通りテニス部の子のものなのだろう。でも、いいのかな。



「ん」



カンタかお前は、教科書をぐいっとこちらへ押しつける宍戸。戸惑いながらも教科書を受け取れば、彼はにかっと笑った。う、わあ、不意打ちだ。




ホップステップジャンプ!



ちしま