キャロット6
「はるのさんっ」
今日のヴァンプさまはえらくごきげんです。にこにこにこにこしながら両手にあるものをひらひらゆらしながらはるのさんを出迎えます。はるのさんは怪訝に思いながらも、というか思う暇もなかったのですが、だってヴァンプさまの手から見えるそれはどう見ても「せ、セーラー服‥!」だったんですもの。
ヴァンプさまはやっぱりにこにこしながらはるのさん、この前着たいって言ってたでしょ!と言うのですが、はて、はるのさんにそんなことを言った覚えはありません、あ。
(回想シーン)
「悪の組織ってなんですかあ‥ひっく、うう、悪い子になっちゃうじゃないですか、うう、セーラームーンになりたいですよう」
(回想終わり)
こ れ か ‥ !
つまりこういうわけです、ヴァンプさまはセーラー服美少女戦士セーラームーンをご存じなかったのです。ですから、はるのさんがなりたかった、つまり着たいのはセーラー服だったとかんちがいしてしまったようなのです。非常に残念。
「ええと、あの、わたし、もう何年も前に卒業したのでさすがにそれは‥」
「ええっ!着ないのっ?」
がびーん!と何かが割れる音がしました。しかしはるのさんはもう大人の女性ですから、セーラー服を着るには、ちょっと、色気、はあんまりありませんが、やっぱり違和感があるのです、大人のお店にいるような雰囲気とか、ね。はるのさんはそのことを十分承知しているのでお断りしたいのですが、その、ヴァンプさまの残念そうな顔に負けそうになりました。断れ、NOといえる日本人になるんだわたしは、
「‥ありがとうございます‥(棒読み)」
NOと言えない日本人でした。
「誰だお前は」
「‥はるのです‥、その‥格好についてはつっこまないでいただけると‥助かります‥」
セーラー服の裾を握りしめたはるのさんは顔から火がでそうなくらい恥ずかしくてしかたがありませんでした。レッドさんははるのさんが存外幼い顔をしていることにびっくりしました。そ、そういえば素顔を見せるのは初めてでした。レッドさんはすべてを理解したかのようにため息をつきました。
「‥はるのか‥初めて見たよ素顔‥お前‥ほんと大変だな‥」
「い、痛み入ります‥もうしんでしまいたいくらい恥ずかしいんですけど、レッドさんかくごおおおお!」
レッドさんはやさしいので女の子には手をださないようで、やっぱり大きくふりかぶったはるのさんの右手をがしっと掴んではるのさんの右手を阻止しました。
そしてやっぱり恥ずかしくて真っ赤になって動きが止まるはるのさん。レッドさんのマスクよりも赤くなった頬が湯気をだしています。耐えきれなくなってはるのさんは振り返ると一目散に走ってゆきました。
「ったくこりねえなあ」
「お、覚えててくださいねレッドさんー!」
おかしなことになじんでしまっているはるのさんに誰ひとりとしてつっこみを入れる者はありませんでした。
キャロット6
ちしま
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