はろーはろー、聞こえますか、私の声が
綱吉の声はいつも優しい。
いつ声変わりしたかなんて忘れちゃったけど、電話越しに響く彼の声は安心する、そんな落ち着いた雰囲気を持っていた。
電話で話すことは今日何があった?とかバイト先の店長のこととか、どうでもいい話ばかりなんだけど綱吉はどんな話でも相槌を打ちつつ聞いてくれる。
綱吉がイタリアに行ってから、毎日続いている電話。
日本とイタリアは、遠い。すごくすごく遠い。
毎日電話するよと言った綱吉が大丈夫、電話代は全部こっち持ちだからと笑った顔がかすむ。
電話だけじゃ、声だけじゃ足りないよ綱吉。
きっと最後にあったときよりもっとかっこよくなってるんだろうなあ、どうしようイタリアのないすばでぃなおねーさんに誘惑されてたら、私むねちいさいからなあ。
「ななくさ、」
優しい声が私を呼ぶ。
小さいころからなぜだか私は名前はとくべつなものだと思っていて好きな人に名前を呼ばれることがとても嬉しい、綱吉に呼ばれるためにこの名前はあるのね。
「ななくさ、」
今日は、泣いてない?
穏やかに、ゆったりと、それでいて甘美な蜜を含んだ音が耳朶をくすぐる。
「泣いて、ないよ、綱吉」
「ななくさはなきむしだから」
どうしてこんなにも優しいんだろう、どうしてこんなに私のことをしっているんだろう。
「ないてないよ、」
だから心配しないで、
そう言おうとしたのにおかしいな、目の前のぬいぐるみがぼやける。
「ななくさ、」
電話を切ったあと泣いてしまうくらい綱吉のことが大好きで、逢えなくても大好きで、遠距離なんて気にもならないくらい大好きで、でも寂しくて。
ごめんね綱吉、私は弱いからすぐ泣いちゃうし、せめて綱吉と話せるこの時間だけは笑っていようと思ってたのに、綱吉が優しいから、
「ななくさ、そとを、みてごらん」
涙は、止まらない、パジャマの袖で涙を拭いてベランダ側のカーテンを開けて鍵をかちゃりと鳴らして下ろす。
からからと涼しい音を立ててガラス越しだった夜の空がはっきりと見える。
「イタリアはまだ午後5時だ、夕陽が見えるよ」
「にほんは、真夜中だよつなよし」
綱吉は大空みたいに笑う。
「日本の月が沈んだら、イタリアで日本のつきに逢えるんだな」
「なあにつなよし、わかんないよ」
「イタリアのほうが遅いんだ、だからこの夕陽はななくさも見た夕陽なんだなあって、今突然思ったんだ」
「、うん」
綱吉が柄でもないこと言うものだからすこし笑ってしまった。つなよし、つなよし。
「もうすぐ、さ、ななくさも、一緒に見られるようになるから」
「‥‥うん、」
「すぐ、むかえにゆくよ」
「‥ほんと?」
「ほんと」
「やくそくだよ」
「うん、ゆびきりげんまん」
「うそついたらはりせんぼんのます、」
「ゆびきった!」
ふふ、とふたりで笑って、綱吉がゆびきりなんて懐かしいなと言った。きっと、綱吉は約束どおりすぐにやってくるに違いない。約束を破るなんて、絶対にありえないから。涙は風に吹かれて乾いていく。
はろーはろー、きこえていますよ、きみのこえは、いつも僕のなかに響いています。
0704リメイク!
ちしまふうろ
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