キャロット3

「今日はね、はるのさんとレッドさんの顔合わせだよっ」


辞表だそうかな。今日付けで。


はるのさんはジャージに着替えて、ちなみに高校生のときの緑色のジャージです、首にタオルを巻くともそもそと着ぐるみのからだを着始めました。背中からヒモをひっぱると、ジッパーがじじじとあがってきます。このヒモはヴァンプさまがくっつけてくれました。こういうことには気がきくんですね。さいごにうさぎの頭を装着。これで戦闘服の着用はおしまい。ヴァンプさまとタイザくんとゲイラスくんが玄関で待機していましたので、お待たせしましたと声をかけると「はるのさんにあってるじゃない!」「わー、似合いますねえ!」「‥」にあっているといわれても複雑です、あんまりうれしくありあませんでした。レッドさんを呼び出した公園への道のりはそれはそれは過酷なものでした。それでも近所のおばさまは朗らかにあらヴァンプさん良い天気ねえあらあらそちらのうさぎさんは?こんにちはーよく晴れましたねえこちらははるのさん。新入社員なの。あははうふふ。


おかげで遅刻しました。サンダルの足をぱたぱたさせていたばこを吸っている彼こそが正義の味方天体戦士サンレッドその人でした。はるのさんの視界はあまりよくないので、ヴァンプさまのかげからそっとうかがいます。


「お待たせしましたレッドさん」
「ったくよーおせーんだよてめーはよー」


はるのさんはさっそくびびりました。うそだ、うそだこの人がヒーローってうそでしょう。いいえはるのさん、現実とはときに残酷なものなのです。彼はヒモですが地球というか川崎を守る天体戦士なのです。柄の悪い彼がさっそくヴァンプさまにお説教をかましはじめました。


「すみません‥!あっそうそう、我がフロシャイムにも新入社員が配属されたんですよ!」
「配属とかそんなのあんのかよ‥」
「こちらはるのさん」
「えっあっ、はるのです、」


頭が落ちないように挨拶するとサンレッドはさっそくヴァンプ将軍をぽかりとやりました、あいたっ!


「なっなんですかレッドさん」
「なんですかじゃねーよてめーはよー、女じゃねーかこいつ」
「そうですよレッドさんはるのさんは女の子です、ささ、はるのさん、やっちゃって!」
「ええええええ」


無茶ぶりですヴァンプさま。
どうしたものか、しかし上司の言うことは絶対です、新入社員のはるのさんに逆らう術はありませんでした。タイザくんとゲイラスくんが応援をしてくれています。がんばれー!がんばってくれーはるのさーん!ふれっふれっ!
意を決して、もふもふの右手でこぶしをつくります。ちょっといびつですが、右手をふりかざして、しししししねええ、サンレッド、!


「必殺!はるのアタック!」
「おまっそれパンチじゃねえかよ」


サンレッドの冷静なつっこみをはじきかえし、はるのさんは一気にサンレッドとの距離を縮めましたが元来の愚鈍さと着ぐるみを着たことによっての重さで予想以上に動きが遅い。サンレッドはやすやすとはるのさんの右手を片手で受け止めました。リーチの長さがちがうのではるのさんの両手は届きません。左手をぶんぶん振るとそっちの手まで捕まえられてしまいました。はるのさんはびっくりします。女子高女子大と女の子だらけで育ってきましたから、成人男性と接する機会がすくなかったのです。ですからサンレッドすら緊張してしまいます。早く離してほしくてしかたありません。


「あいつに脅されてるのか」
「ちっちがいます、しんにゅうしゃいんですてちがいでっ」
「災難だなー。それでうさぎのかっこしてんのか」


ほんとにさいなんですよちくしょう!
はるのさんの不満が爆発しました。


「わっわたしだってこんなことしたくないですよう、でもしごとなんですー、しごとなんですものやらなきゃお金もらえないんですよ生活かかってるんですっ!」
「そ、そうか‥」


ぐすぐすと鼻がたれてきましたがでかい頭のせいで何もできません。うつむいたせいであたまがころりと取れました。シュールな光景です。それにしてもひどいかおをしているとはるのさんは思いました。


「そっそれにっこの着ぐるみだってヴァンプさまがサンレッドさんは女子供でも容赦しないっていうのでっ」
「‥いい度胸してんじゃねえかよーてめーはよー」


サンレッドははるのさんから手を離します。そのすきにはるのさんは転がった頭を拾いあげました。ヴァンプさまはあうあうと後退しながらレッドさんと距離を取っています。サンレッドは距離を一瞬で縮めてヴァンプさまをげんこつでなぐって一喝、ヴァンプ将軍は正座させられてしまいました。ついでにタイザくんとゲイラスくんもとばっちりをくらいました。あらまあ。はるのさんはうさぎのかぶりものを手にしたままぷるぷる震えていました。次は自分のばんだとおもったからです。そんなはるのさんにレッドの魔の手が、げふん、サンレッドの手が伸びて行きます。殴られると思ったのかはるのさんは目をぎゅうっと閉じました。が、殴られる感触はなかなか来ず、変わりに、頭を撫でるやさしい手のひら。


「あー、まあ、無理すんなよ」


おそるおそる目を開けると、そこにははるのさんの頭をぽすぽす撫でるレッドさんがいたのです。はるのさんはぼふんと頭から煙をだすと、そのまま固まってしまいました。


キャロット3


ちしま