終わらない 幸村

サイレントモードの携帯がぴかぴか光っていた。
幸村くんはゆっくり携帯を開く、赤也だ、とやわく微笑んだ。ほら、くすくすと見せてくれたそれには『先輩!お誕生日おめでとーございます!!!今年もよろしくお願いします!!!!』年賀状みたいな挨拶。せっかちだなあ切原くん。誕生日には、まだ早いよ。液晶の時刻は11時57分。フライング。



「相変わらずだね」
「まったくだ、みんな変わらないな」



お前も変わらないけれど、幸村くんはわたしの髪をくしゃりと撫でた。幸村くんに撫でられるの、すごくだいすき。ぎゅうと目を閉じると、大きな手はわたしの癖っ毛を優しく梳かした。
片手で携帯を閉じてそのままベッドの脇にことりと置くと、幸村くんは腕をまわした。最初はびっくりしたり唐突だったから倒れこんだりしちゃったこともあったけれど、今はもういつでも来い!って感じ。ベッドを背もたれにして座る幸村くんの上にまたがるようにしてわたしも腕をまわす。



「すき」
「うん」




幸村くんは、一日の終わりに、わたしをぎゅうっと抱きしめる。それをしないと、幸村くんの一日は終わらないらしい。ふざけて聞いてみたら、真顔でその通りなんだと言われて、わたしのほうが恥ずかしくなっちゃった。それは今日もおんなじで。壁にかけられた時計を見れば、針は11時59分を指さしていた。幸村くんの最後と最初、ぜんぶわたしがいただいちゃうんだから。ひとりじめしちゃう。



「お誕生日、おめでとう」



精市くん、愛しい名前をささやけば反応するように唇が降ってくる。しなやかな、それでいて力強い幸村くんの腕の中にすっぽり包まれたままのわたしは、彼の心臓の音を聞きながら、肩越しに携帯を見つける。光り続けているのは、きっといろんな色のジャージのあの子たちからのお祝いメールなんだろうな。光ることをやめない携帯をそっと枕の下に隠して、やわらかな癖っ毛に指を通した。



おわらない


▼幸村くん誕生日企画に提出

ちしま