風になる 綱吉




自転車の二人乗りは捕まると言われたけれど、やっぱりゆめなんです、大好きな人の背中につかまって、心臓の音を聞きながらどこまでも走ることが。


「きゃっほう!私は風!風になるぅぅぅぅ!」


海までの道を自転車で走りながら綱吉の背中からおなかに絡ませていた腕を離して両手を広げてみた。


「お前どこの姉ちゃんの台詞だよおわあ手!手はなすなつかまっとけって!」


怒られた。
ぐい、と綱吉がハンドルから左手を離して私の腕を手探りしながら掴んで自分の体に押し付けるようにした。
ちぇー、と照れ隠しにぶーたれたふりをしながらゆっくりと綱吉の体に腕を回すとそこから綱吉の体温が伝わってきてどきどきして、顔を背中にくっつけるととくんとくんと心臓の音が聞こえて、なんだかすごく恥ずかしくなって、だって二人乗り!


「ほ、ら、もっとスピードを出すんだ綱吉!」
「なんだよななくさが重いんだろ」
「(‥)(痩せよう)」
「ばか、冗談だよ」
「ふ、んだ。ほら、スピード落ちてるよ!私は風を感じたいんだ」
「聞こえるよななくさ。だからそんな大声で恥ずかしいこと言うなよだから手ぇ離すなって」
「むー‥もう、つく?」
「あとちょっと。ほら、海のにおい」


息を吸い込むと、ほのかに綱吉の香り(うわ、なんか変態チックだな自分)と、潮の香り。
海が近いんだ。
小さくはなうたを唄いながら、自転車をこぐ綱吉を後ろから見ていた。


やっぱり、だいすきだなあ。


太陽の光をあびた、茶色い髪。大きな背中。すっかり男の人らしくなった骨ばった手。
おとこのひと、になった綱吉はすごくかっこよくて、


「綱吉ー、大好きだよ」


小さくつぶやいた声は聞こえなかったかもしれない。


「‥‥‥」


綱吉が何か言ったけれど、そばを通ったトラックにかき消された。


「なあに綱吉」
「なんでもないってば。ほら、海だよななくさ」


ほんとはね、聞こえたよ綱吉。
背中に耳、くっつけてたから。
青い海は綺麗で、ついたら綱吉に水をかけてやろうと思った。




「俺も、」




0703
ちしまふうろ