ハートのジョーカー 雲雀



トランプに、負けた。


「はーいななくさ罰ゲーム!」


今日はババ抜き。
トランプは楽しいが、そのあとの罰ゲームのほうを楽しみにしているのだ、みんな(うん、他人事だと思って私も楽しいと思ってた)(やっぱり罰ゲームとかよくないよね!)
だって今日は私が罰ゲームをすることになってしまったんだもの!その内容が「誰々くんの消しゴム借りてくる!」とかかわいいものならいい。私に言い渡された罰ゲームの内容は。


「雲雀恭弥の肩をたたいて振り向いたところで「ひっかかったー」という(ただし人差し指はほっぺに突き刺す)」


ひーちゃんが言い出した瞬間みんなの笑顔が凍った。大きな声だったのでクラスのみんなにも伝わってしまったようで私のほうをご愁傷様、みたいな視線がちらちらしてる。
わ、私だって好きでやってるんじゃないのに!いやいや、みんなひどすぎる。みんな友達だよね、って聞いたらにっこり笑うだけだった。なんでうなずいてくれないのみんな!


まさに絶好のタイミングで、がらがら、と音がして教室の扉が開かれる。教室が凍った。さっきまでの和やかな雰囲気は何処へ行ったんだろう。それと同時に私の地獄へと通じるドアも開かれた。さよならみんな。今日のことは一生忘れないから。
ふわぁ、とあくびをしながら雲雀くんは窓際の一番後ろという絶好の席へ歩き、優雅に座る(薔薇が見えそうですよ奥さん)
腕を組んで目を閉じている。ひーちゃんが、早く行けとばかりに私の背中をおした。


「健闘を祈る!」


なんて敬礼までしてきたのは一緒にゲームをしていたほかの二人で、笑ってるんだかなんだか微妙な表情で手を振ってる(助けてよ)(友達って何なんだろう)
私は腹をくくって(神様仏様死んだおじいちゃん私に力を!)そっと雲雀くんのうしろに回る。


「ひ、ひば、り、くん」


ぽんぽん、と右肩を叩く(ごめんなさいごめんなさい)。
クラス中の目が私たちに注がれる。視界の端でひーちゃんが十字を切っているのが見えた。


「何」


と、雲雀くんが振り返った。目が合う。きれいな色。でも、その瞬間私は人差し指(よかった爪きっといて)(刺さってたらきれいなほっぺに傷つけちゃう)を雲雀くんのほっぺに突き刺した(嗚呼もう死ぬかもしれない)。


雲雀くんのほっぺは意外とやわらかいことが判明。
私は平常心、平常心、と自分に言い聞かせて罰ゲームの台詞を言う。噛むな、かむなよ私!せーの、


「ひ、ひっかかったー」
「‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥」
「ひ、っかかったーかったーったー‥‥ど、ドップラー効果、みたいな」


何やってるんだ私!
無言に耐え切れなくなって何がドップラー効果だよ!
教室が冷え切ってる。これはもう零度以下だきっと。


「はるの、さん」
「はははははははい!ごごごごめんなさいー!」


名前を呼ばれて意識を取り戻した私は急いで手を下ろす(雲雀くんのほっぺ‥‥)。


「咬み殺すよ」
「!」


間違いなく教室中の目が刺さっているはずなのに誰も助けてくれない(友達って‥‥)。
はい早く席につけー、なんて何も知らずにのんきな顔して教室に入ってくる先生がやたらにくい。ごごごごごめんなさい!とひとことのこして私は逃げるように自分の席に戻った。みんな見てみぬふりしやがって。


お父さん、お母さん。今まで育ててくれてありがとうございました。私はここで終わりのようです。きっと授業が終わったら応接室きて、なんていわれて咬み殺されるに違いない。
一時間ずっと感謝の言葉とのろいの言葉を心の中で言い続け、授業終了のチャイムが鳴って早くこいやゴルァ的な呼び出しが来るのを今か今かと待ちながら、


待ちながら
待ちながら
寝てしまった。
一時間が過ぎた。


いつのまにかみんな帰ってしまったらしい(どうしてみんないなくなっちゃうの!)(後日談、ただ聞こえてなかっただけらしい)。
雲雀くんを除いては。ガラガラ、と教室の扉の開く音。(さっきも聞いたこれ)


「‥‥まだ帰ってなかったの」


はぁ、と溜息をつきながら扉に背を預けている雲雀くんが私を見やる。


「あ、う、えっと、寝ちゃったみたいで‥‥ごめんね、いまかえるううううああ!」


土に埋まってしまいたい。カバンの中身全部ぶちまけた。あわあわと拾っていると、ふわりと影が落ちた。


「!」


ひば、雲雀さんが拾ってくださってるー!無言も苦しいので、意を決して話しかけてみる(私ってばチャレンジャー)


「あ、あの、ごめんなさい」
「‥‥何が」
「その、お昼休み」
「‥‥別に」


はいこれ、となんでもなかったかのように教科書とノートを渡してくれた。途中手が触れ合って、でもどっかの青春中学生じゃあるまいし、普通に受け取った(でもやっぱり恥ずかしい)。


「早く帰りなよ、」
「う、うん、ありがとう、じゃあ、えっと、ばいばい」
「じゃあね」


きっと顔が赤くなったであろう私は顔を隠すようにして教室を後にした。
蹴躓いてうおぅっとか変な声出してしまったのはおいといて。
なんとなく、なんとなくだけど、雲雀くんも普通の男の子だ、と思った。
(でももうあんなことはしたくない)



ハートのジョーカー



ちしまふうろ
(何年か前のゴミ箱からあさってきた)


0523