room 獄寺
玄関を開けると、部屋は新しい家具の匂いで満ちていた。
ほんのすこし木の匂いがして、でもやっぱり落ち着かなくて。
住み慣れた一人暮らしの部屋は、からだのでかい住人が増えたので窮屈で、でもその狭さは嫌いじゃなかったけど、学生時代からの思い出を引き連れて、わたしたちは、今日、引っ越してきた。
引っ越すきっかけの極めつけはこの一言。
「結婚するか」
うれしすぎて、うれしすぎて、びっくりして、タバコの煙だけを見つめていたような気がする。結婚を前提の同棲とか、あれ、順番おかしくない?っていうかこういうものだっけ?とかいろいろな思いがぐるぐるまわって、隼人の手が目のまえをひらひらさせるまでトリップしてしまった。
「もっと家族が増えてもいいように」って、庭付きの、小さいけれど暖炉もある、二階建て。
「ねえ隼人、これどこおけばいいの?」
「ん、ってばかおまえなんでこんな重いの持ってんだよ!俺に任せとけって」
「あつあつだね獄寺くん」
「はっ!十代目、お手を煩わせてしまって申し訳ありません!」
相変わらず十代目を慕ってるのは変わらないけど、
「獄寺ーこれこっちか?」
「おいこら野球馬鹿それはこっちだっつーの!」
山本くんとの犬猿っぷりも相変わらず。学生のころから変わらないから、見てて飽きない。
二人ともせっかく手伝ってくれてるんだから、と間に入るとふてくされたように家具運びをし始めた。かわいいなあ良い大人のくせに隼人は。
やっとほとんどの家具を配置し終わって、あとは二人で大丈夫だから、引っ越しそばでもどう?と食事に誘ったのだけど沢田くんと山本くんはリボーンが待ってるから、と帰ってしまった。
後日みんなを呼んで新居祝いをしよう。気合を入れて手打ちそばでも作ろうか。
「隼人、お疲れ様。すこし休憩しよう」
「ああ。 しっかしつかれたなー」
「コーヒーでいい?」
「ん、さんきゅ」
「‥‥‥‥はい、」
リビングのフローリングに直に座って、コーヒーをすする。カーペットは明日には届くだろうか。宅配便が遅れているらしい。布団はあるから、夜はなんとかなるだろうけれど。
「‥‥実感がわかねえ」
「なにが?」
「なんていうか、その、ふたりですむんだなーっていう」
顔をすこし赤くしながら隼人は言う。こっちまで照れてしまうよ。
「ふふ、前も一緒に住んでたでしょう?」
「んー、なんか違うんだよなー」
言って、隼人は煙草に火をつけた。ふわり、とあの煙草のにおいが広がる。あ、と気づく。落ち着かないのは煙草のにおいが無かったからだ。前の家にはあった、家具にもカーテンにも染み付いた、隼人の匂い。
からだを隼人の方に傾けるとやっぱり煙草のにおいがして、心地よかった。
「ななくさ」
「うん」
「 、幸せにするから」
「‥‥うん」
頼りにしてますよ、旦那さま。
room
ちしま
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