半壊 渚カヲル

「ねぇ、カヲルくん」



突然悲しくなって、どうしてか泣きそうになって涙が出てきそうになるのをこらえながら隣に座る彼に呼びかけた。薄暗い教室に、わたしとカヲルくん、ふたりだけ。



「なんだい、ななくさ」



カヲルくんはやわらかな、しかしナイフのような鋭さを含んだ空気を纏っていて、それにひるみそうになりながらももういちど、カヲルくん、と名前を呼んだ。彼は鼻歌でも唄うかのように、目を閉じている。



「あのね、私、考えたの」



「うん」



彼は、なにを、とは聞かなかった。ただ、返事を返してくれる。



「私、わたし、」



わたしの涙腺はだいぶ緩んでしまったようで、いけない、涙がひとすじほおを伝った。それを拭うことはせずに、私は下をむいてこれ以上涙がでないように目をぎゅうっとつぶったけれど、逆効果であふれた涙がぽたりぽたりとスカートにしみを作った。色の変わったスカートをぎゅうと握る。



「わたし、カヲルくんとね、い、一緒に、しゅうがくりょこうとかね、行きたかったよ」



「うん」



「シンジくんも、アスカも、ヒカリも、綾波さんも、」



ひく、としゃくりあげそうになるのを抑えながらことばを紡ぐ。



「鈴原くんも、相田くんも、っ、みんなでね、一緒に行きたかったの」



「、うん」



「ねえ、カヲルくん、どうして、いないの?」



「‥‥」



カヲルくんは哀しげに目を細めた。伸ばされた白い手は、わたしには届かずに、宙を彷徨う。そのまま、わたしをさらってくれたらいいのに、連れてってくれたらいいのに、



「どうして、みんな、わたしだけ、おいてっちゃうの。わたしは、どうしてひとりぼっちなの、つれていってよ、カヲルくんっ」



カヲルくんは一度だけほほえんで、ななくさ、いいこだからなかないでと一度だけわたしの頭を撫でて、あいしてる、とつぶやいた。ぱりん、と乾いた音のあとに私はまたひとりぼっち。




半壊

(なんちゃってシリアス)

ちしま