あまくない 銀時



いつだって先生は笑ってて、ていうかふざけてて、今だって先生のくせにれろれろキャンディーたばこみたいに口にくわえてれろれろしてる。でもうざい。別にいいじゃん現国さぼったくらい。常習じゃないし、はじめてだし。


「うるさいな坂田ぁー」
「はーはー先生を呼び捨てにするもんじゃないでしょーむしろ銀時って呼んでくれてもいいんだぜななくさチャン?つーか俺かっこいいなかっこよすぎるのって罪だな」
「‥‥」


だから先生はばかなんだよあほなんだよ。すきなんだよわたし、先生のこと、とりあえずあっち行けよ、近いんだよ、このやろー。どうしたってわたしと先生は生徒と先生なのであって、わたしが卒業したって就職したって先生と生徒っていう関係はどうせ変わらないことはわかりきっているのに、卒業したら、とか、もうすこし、大人になったら、とか、そんな幻想を抱いてしまうのだ。わたしはばかです。


「嘘だよひくなよそんな目で俺を見るなよ」
「前々から思ってましたけど、先生って馬鹿ですよねアホですよね」
「そ、そんなこと言われたら先生悲しいっ」
「‥‥」


よよよ、と泣き真似するとかふざけてるけど、先生、意外ともてるんだって知ってる。こっそり、告白されてるのだって知ってる。女の子の情報力なめんなよ!どんなところからだってまわってきちゃうんだぜ、だからわたしは誰にも言えずにひとり心の奥底に溜めて溜めてあふれそうになるのをこらえて、先生と笑う。


別にわかんないところなんてないし、むしろ先生の教え方雑すぎてわたしが逆にこれはこうだからでしょーとか言っちゃうくらいだし、あれもしかしてわたし先生にむいてるんじゃね?とか思ってしまうくらいである。先生と先生っていうジャンルならありですか、先生。教えて偉い人。


一生のうちのたった3年間、たった3年間しか先生は先生でなくてわたしは生徒でしかないはずなのに、きっと、わたしが大人になっても、どこか知らない場所で出会った瞬間に「先生」って言ってしまうんだろうと思う、結局、いつまでたっても先生は先生なのだ。学校からは一生抜け出せない、先生。わたしはずっと生徒というカテゴリに属されて、いつの日か忘れ去られてしまうのかな、たくさんの生徒のなかのひとり、になってしまうのかな。


「あいつらならいつものことだからあんま気にしねーけどはるのはじめてだろ、なんかあったか担任のありがたい授業をサボタージュしちまうくらいのことが」
「ないっすよべつに」
「ちなみにはるの、次サボったら単位やんねー」
「横暴じゃねーかコノヤロー」


しょうがないから現国は出てやってもいーよ、と捨て台詞を吐いて教室をあとにする、あの空間にふたりきりでいることができなかった、あふれてしまう、コップから水があふれるように、自然と、いつのまにか口からこぼれてしまいそうだった。ふさぐように、キャンディーひとつ口に入れる。



あまくない


銀さん映画化おめでとう!
ちしま