飛ばない小鳥 渚カヲル
びっくり鳥人間コンテストを見ていたら、急に空を飛んでみたくなって、それで、もし、人間に羽があったらどうする?とカヲルくんに聞けば、ちょっと困った顔をした。コーヒーがゆれる。カヲルくんはことりとカップをテーブルに置くと、すこし考えて、
「そうだなあ、」
「うん?」
「いらないなあ」
「どうして ?空飛べるんだよ?」
「君を後ろから抱きしめられない」
あーなるほどーって納得。わたしもカヲルくんのこと抱きしめられなくなるのはいやだなあ。後ろからぎゅーってするの、だいすきだし。するのも、されるのもすき。だからやっぱりいらないかなー。鳥人間になるのも大変だ。
「君が抱きしめてくれるときに胸があたるのがなんともいえないから、羽なんかあったら大変だよ」
「‥(へんたい)」
カヲルくんは心外だとでもいうような顔をして肩をすくめた。どうしてだろうわたしはまちがっていないはずなのにこの敗北感というか悔しさというか‥!釈然としないものがあるけれど、おかまいなしに背中に飛びこんでやった。ついでに、おしつけてやるー。そんなにないけど。むぎゅー。
「人間がいちばん美しい形をしていると思うけどね」
「ふーん?」
むぎゅー攻撃にはびくともせずに、カヲルくんは続けた。くやしい。
手は繋げるし、抱きしめられるし、キスはできるしセックスだってできる。セックスのときにキスして抱きしめる行為だって人間しかできない行為だよ。きっとね。目と目をあわせる行為だって、こうしてななくさを抱きしめて見つめ合って、笑い合うことは人間だからできることだ。空を飛べなくたって気を遣ることはできるよ。
良い話なんだかただの変態の話なんだかよくわからないけど、そもそもカヲルくん自体がよくわからないから納得してしまうのが不思議。
「うーん、じゃ、カヲルくんは、人間でよかった?」
「あたりまえじゃないか」
カヲルくんがテーブルに手を伸ばすので、わたしも一緒に前のめりになる。むぐー。手にとったカップからコーヒーをひとすすり、
「ななくさが猫だったとしても愛せる自信はあるけどさ」
わたしだってカヲルくんが犬でも愛せるよ。
とりあえず、育てわたしのむね。
飛ばない小鳥
ナチュラルに変態
ちしま
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