ロマンのありか 久遠



 久遠さんと出会ったのはそれはそれはくそつまんない映画をたれながしている映画館、たまたま隣の席に座ったのがいちばん始め。


 宣伝されたわりに映画はつまらなくてつまらなくて、劇場にいるお客さんの半分くらいは寝てしまっていたように思う。わたしもそのひとりで、予告の時点で睡魔がこそこそやってきて、本編始まって3分で爆睡してしまった。完敗である。


 それからなんだかまわりが騒がしいなあうるさいなあ誰だわたしの睡眠を邪魔するやつは、と寝ぼけ眼をこすりながら目を覚ますと、嘘の爆弾事件に巻き込まれていたようで、でもきっと夢だろうな、そうだこれは夢に違いないと考えたわたしは再び夢のなかにダイブ。誰かがずーっとしゃべっていた声が子守唄のように聞こえたからだった。


 気づいたら銀行ギャングたちの仲間入りを果たしてしまったんですけど、なんでですかね、「顔を知られたからには生かしちゃおけねえな」響野さんがふざけていうけどわたしわすれっぽいからすぐにわすれちゃいますよだから殺さないでくださいーって言ったら笑われたので、からかわれているのだと理解した。


 後日、爆弾がしかけられてまわりの客が逃げ惑う中、どうしてわたしを起こしてくれなかったのかと久遠さんに聞くと、「だって気持ちよさそうに寝てたから起こしたらかわいそうかなと思って」そのまま気持ちよくしねってことですよねそれ。もし爆弾が本物だったらと思うと恐ろしいことである。彼の手にはわたしの財布の中に入れていた学生証が握られていたのを見てもう逃げられないと確信。どうやって取ったんですかそれ‥!


 最初の出会いがなんとも最悪というか衝撃的というかありえない出会い方をしてしまったため今となっては驚くことがすくなくなった。彼らなら当然なのだ。銀行強盗だって殺人事件の解決だってこどもの喧嘩だって、なんでもやってしまう。不思議。だけどたのしい。そう、たのしい。おもしろい。わくわくする。


 カフェに行けばみんながいて、なんだか安心する。いつも通りの温度でわたしをいやしてくれるのだ。コーヒーは苦いけど。砂糖をいれたら怒られた。そんなのコーヒーじゃない、砂糖のコーヒー漬けだ、!


「久遠さん」
「どうかした」
「あの、わたし、強盗も何もしてないんですけどここにいていいんでしょうか」


 久遠さんは優雅に足を組んでコーヒーを啜る。それだけで様になるからふしぎだ。


「うん でも君は強盗の一味だよ。 仮につかまったとしても君の名前も自白するよ。強盗は4人じゃない、5人いた、って」
「わー、それは困りますね 人生真っ暗じゃないですか」
「だいじょうぶだいじょうぶ 僕たちはつかまらないから」


 どこからそんな自信がわいてくるのかはわからないけれど、きっと久遠さんが言うことは絶対だし、成瀬さんも雪子さんももちろん響野さんもこの先警察のお世話になることはないんだろうな、と思う。祥子さんが新しく淹れたてのコーヒーを注いでくれた。砂糖をひとつふたつみっつよっついつつ落とす。




ロマンのありか


※《「ローマン」とも》

1 「ロマンス1」に同じ。

2 小説。特に、長編小説。

3 感情的、理想的に物事をとらえること。夢や冒険などへの強いあこがれをもつこと。「―を追う」「―を駆り立てられる」

◆「浪漫」とも書く。

大辞泉より



ちしま