キャップのむこう 宍戸


「あはっ、宍戸ねぼけてるー?」
「話そらすな」


宍戸が、こわい、です。いつになくまじめな顔して、まっすぐな目でわたしを射抜くから、わたしもいつもみたいにけらけら笑っていられなくなってしまった。


だって、だって、教室で日誌書いてたら宍戸が入ってきて、日直逃げられたー、ばかじゃねーの、なんて笑ってただけなのに、宍戸の顔がだんだん赤くなってきて、夕日が沈むのも早くなってきたなあなんて的外れなこと考えてたら、宍戸が、わたしのこと、すきだって、言うから、


「な、な、ど、どうしたの、いきなり、」
「いきなりじゃねえよ、ずっと、」


好きだった。
思考回路はショート寸前、なんてわたしそのものだ、なのに心臓はばくばくと胸から飛びだしそうなくらい脈を打っている。心臓、だいじょうぶかなあこわれそう。わたしが何も言えないでいると、俺のこと、嫌いか、と宍戸が聞いた。


「きらいじゃないっ」


わたしは即答する。だけど、じゃあ好きかって言われたら、困ってしまう、だって、宍戸、友達だと思ってたし、それに、むしろ、す、ううん、すき、だけどさあ!


「っわたしっ、」
「わるかったな、とつぜん。こまらせてごめんな」


へへ、と宍戸が笑って、帽子のつばを下げて教室を出ようとしてしまうところを「ま、まってっ」あわててひきとめる。


「な、なんだよ」
「えっと、えっと、あのねっ、ちがくて、えっと、」
「‥」
「す、すきっ」


宍戸の顔があっというまにたこさんみたいな色になる。ゆだってしまったみたいだ。って、違う違う!「あっ、ちがっ」今度は赤がさあっとひいていく。いそがしい。「お前なあ、よろこばすのかがっかりさせんのかどっちかにしろよな‥」はあ、とため息をついた。うう、ごめんなさい‥。しどろもどろになりながら、じぶんの気持ちを伝えようと、だけどさらにてんぱってしまう。落ち着けと笑われた。


「えっとね、うー、宍戸のこと、すきだけど、きっと、宍戸のすきとはちがうきがするっていうか、それでね、あのね、えっと、すきになったら、すきっていうからっ」


あれー、自分でもなにを言っているのかわからなくなってきた、けど、まちがってはない、はず。むしのいいはなしだけど、わたし、きっと、宍戸のこと、すきになる、予感がするから、だから、


「ま、まってて、くれませんかっ」


答えは、大きく見開かれた瞳と赤くなった顔をかくすためにさげられた帽子で。





キャップの向こう





すぎちゃったけどおめでとう宍戸!
ちしまふうろ