ピンクスパイダー 赤也


 赤也はわがまま。いつだってわがまま。だけどそれが通っちゃうことも知ってる。けっきょくはみんな赤也に甘いから。わたしだってそのひとりで、赤也の望むことならなんでもしてあげたいと思うし、赤也がわらってくれるならそれでいいかなあ、なんて思ってしまう。真田には叱られるけど、真田だっていつもに比べたらじゅうぶん、甘いよ。柳なんかでれでれしてるし、幸村だって厳しさの裏にはたくさんの愛情をもって接しているし。


「先輩っ、それ新製品っすよね!」
「んあ、そうそう、朝コンビニで買ってきた やらねえぞ」
「ええええ、ひとくちくださいよー」


 ほら赤也のひとくちちょうだい攻撃!丸井はお菓子にかぎってはケチなところがあるけど、たまに、たまああに、5回に1回くらいは「しょうがねえなあ、ひとくちなっ」って赤也におすそわけしてあげることがある。ちなみに、それは幸村が「幸せをおすそわけしたらもっといっぱいになって帰ってくるんだよ」って諭してたから。赤也から帰ってくることはなさそうだけど、この前ポッキーのイチゴ味のパッケージがかわいいやつを買ってきて丸井にあげたことがあったっけ。丸井も驚いてた。部室でどよめきがおこったほどだもん、本人はなんでこんなに驚いてんスか!ってびっくりしてたけど。


 今日はいつもより部活が早く切り上げられて、幸村の独断なんだけど。おつかれーす、と赤也がお辞儀する。子犬のようにかけてくる姿はいつみてもかわいい。かわいいって怒るけど。試合のあとだからかほんのり汗をかいていた。風邪ひかないといいけど。


 先輩は手ぇ冷たいっすね、と帰りがけに手を握られて、赤也がつぶやいた。この時期、お昼ごろは日差しが照って暑いくらいなのに夜になるとめっきり冷える。冷え性のわたしの手足はすぐに温度を失ってしまう。体温をわけあたえるかのように赤也の手がぎゅうとわたしの手をつつみこんだ。


「赤也、」
「ほしいもの、ある?」
「ほしいものっスか?」


 赤也はううんとわざとらしく考えるふうにして、先輩、と言った。わたし、かあ。どうしようかなあ、って笑ったらからかわないでくださいとまじめな顔された。


「赤也、わたしね、赤也のほしいもの、なんでもあげる」
「それじゃ、やっぱり先輩がいいっス」
「もらってくれるの?」
「先輩が ほしいっス」


 先輩が の が を強調して、ラケバをがちゃがちゃならしながら歩く赤也の手を、さっきより強く握り返した。
 ねえ、気付いた?
 今日、部活が早く終わったのって、いちばんにわたしがお祝いできるように、って言ってくれたんだよ。幸村たちが。今日、練習試合、幸村が受けたのも、真田があんまりどならなかったのも、丸井がお菓子くれたのも、ジャッカルがいつもよりにこにこしてたのも、仁王がおかずくれたのも、柳生がポエムよんでくれたのも、柳が欠点教えてくれたのも、ぜんぶぜんぶ、赤也だからだよ。赤也はきっと誕生日だからみんながやさしいのかもしれないと思っているかもしれないけれど、赤也だから、こんなにあまやかしちゃうんだよ。誕生日じゃなくたって、赤也のことだいすきだからなんでもしたくなっちゃう、だから、わたしをあげることくらいかんたんなことなんだよ。





ピンクスパイダー



みんなおまえにとらわれているのだ




happy birthday!akaya!
ちしまふうろ