オレンジ ケロロ


擬人化!


けけけけろちゃん!とかみそうになるわたしをむししてわたしの手を引いてばたばた走る緑色の髪の彼はわたしの声を聞く気はないようで、学校帰りのわたしを見つけるなり「ななくさ殿〜!」と大きな声でわたしのかばんを奪って手を掴み猛ダッシュ、!したのであります。


「け、けろちゃん!」
「黙ってっついてくるでっありますっ」


もう、息があがってるし、足もローファーだから正直限界、だ。帰宅部なめんなよ‥!けろちゃんもあごでてるし、いつから待ってたんだろう、というかいつから走っているんだろう。そんな疑問も口にできないくらいわたしははあはあしてる。


「けっけろちゃー」
「あとっちょっとっでっありまっ」


あとちょっと、あとちょっとね、信じていいのね!
見慣れた下校のルートではなく、もうどこか知らない道に入ってしまった。住宅街はときどき夕ご飯の匂いが漂っている。あ、ここはカレーかな、それともこっちは焼き魚かな、ああ、おなかすいた。それにしても今日のわたしならマラソンいけるんじゃないかなあ。こんなに早く走るのなんて初めて。けろちゃんが引っ張ってってくれてるおかげだけど。けろちゃん、足はやいなあ。いつも夏美ちゃんに追いかけられてるから逃げ慣れてるのかなあ、なんて。


さすがに坂道、となると足の負担が半端ない。長い長い坂道。けろちゃんはおかまいなしに走る。ときおり風にのってけろちゃんのシャンプーの匂いが通り過ぎる。けろちゃんの左肩で、わたしの赤バッグが揺れる。掴まれた腕とは反対の手で奪われた通学バッグはがちゃがちゃとやかましい。重くないかな、もっと荷物少なくしとけばよかったな。


「ななくさ殿っ、」
「なあにっ」
「吾輩のっとくべつなっすぺしゃりゅっすっすぺしゃりゅっううっスポットっでありますっ」


きっとスペシャルスポットって言いたかったんだよね、大切なところで噛んじゃうその気持ち、お察ししますよ。
けろちゃん、どれってどういうこと、と聞く暇もなく、けろちゃんが急停止する。


「ぶ」
「ふおお!すまないのでありますー!」


背中に勢いよくつっこんでしまって、鼻が曲がるかと思った‥!けろちゃんがばばーん!と両手をひろげる背後に広がるのは、真っ赤に染まる夕暮れに照らされて赤く光る街並みだった。きれい、とこぼれる感想にけろちゃんがにこにこと満面の笑みを浮かべていた。いつもの町が、かわらない景色が、すごく、素敵に見える。


「けろちゃん、すっごく、きれいっだねっ」
「でがしょう!ぜったいぜったいずえーったい、ななくさ殿にみせたかったのでありますっ」


緑色の髪の毛がきらきらオレンジに染まってて、けろちゃんも綺麗だよ、なんて言ったら顔までまっかになって、どこからかカラスの声が聞こえたのでゆっくり歩いておうちまで。
のんびり歩きすぎて夕飯担当を忘れていたけろちゃんは夏美ちゃんにこってりしぼられたみたいです。




ちしまふうろ