エキセントリックヒーロー サンレッド

わたしだけがたのしいサンレッドのはなし



であい
あくのそしき
なかよしになる
























1であい


わたしがヒーローに助けてもらったのはこないだの日曜日。ちょっとばかり帰宅が遅くなってしまったわたしは駅の改札を出て小走りに家までの道のりを急いでいた。だってこわいもんね。そしてわたしはがきつかが観たいのである。ものすごく観たいのである。もうすでに黒薔薇を見逃したことに絶望しつつも、せめて最後にがきつかだけは‥!


しかし運の悪いことに、(そういえば占い12位だったっけ)、悪そうなお兄さん方がひいふうみい。3人も!


「お姉ちゃんひまー?」
「俺らとカラオケでもしにいこうよー」
「おごるしー」


わたしがひまそうに見えるのなら眼科に行った方がいい。わたし急いでるんです!と遠回しに伝えると、それでもしつこくカラオケに行こうと誘ってくる。うあ、酒くさい。どうしよう、逃げちゃだめかなあ、でも追いかけられそうだなあ。どうやって逃げようかと考えを巡らせていると、


「なに やってん だ」


と、お兄さんたちのあたまにチョップがとんとんとん。お兄さんたちはぐわあとうめいて倒れるので、チョップをかました犯人、ちがう、正義の味方を拝見することができたのです。


「だいじょうぶか」


へらへらと笑う赤いマスクのその人は、かわさきマイコンシティという文字の書かれたTシャツを着ていて、片手はジーンズのポッケにしまわれたままだった。


「あ、えっと、はいっ、だいじょうぶですっありがとうございましたっ」


あわててお礼を言うと気にするなとでもいうようにひらひらと片手を振って商店街へ消えて行く、わたしはもういちど頭を下げて、再び家までの道のりを走った。わたしは後に、彼は天体戦士サンレッドというヒーローであることを知る。なんてベタな展開!













































2あくのそしき


レッドさんはどうやらいつもこの河原で対決をしているらしい。友達が言ってた。ふだんは反対側の通りを散歩するのだけど、そうと聞いては河原に行くしかないんじゃないですか!こじろうを連れて土手を歩いていると、うう、なんだあの人たち。形容しがたいイカみたいな(イカ‥)何かがうにょうにょしてる。そのとなりには‥マント?かっぽうぎ?を着た人、人?彼らを相手にしているのは、「レッドさん、!」こじろう行くよ、と早歩きで河原に向かう。あ、でも、対決ってことはあんまり近くに行かないほうがいいのかなあ。どうなんだ対決って。


「おー、このまえの」
「先日はありがとうございましたっ。おみかけしたので、つい」


レッドさんとそんなやり取りをかわしていると、


「レッドさん‥かよ子さん以外にも‥ご友人がいたんですね…」
「うるせーぞお前」


緑色の、ええと、彼がわたしを見てびっくりしたようにレッドさんを見やる。かよ子さんて誰だろう、もしかして、彼女さんなのかなあ。そうだよなあ正義の味方だもんなあ彼女のひとりやふたりくらいいてもしょうがないよなあ。あ、でも友達ってところを否定しなかったってことはちょっとうぬぼれちゃいますよ!、でもレッドさんわたしの名前しらないし。


「あ、私、ヴァンプと申しますー」
「あ、えっと、はるのななくさです、はじめまして」


緑の人、もといヴァンプさんがご丁寧に頭を下げる。こちらこそ、と挨拶するとへらへらしてたレッドさんが「だから律儀に挨拶してんじゃねーよ怪人がよー」切れた。え、怪人だったんですかあなた!


「われわれは悪の組織フロシャイムの川崎支部です」


悪の組織、天体戦士、笑えるようなことが日常に落っこちているのがわたしの町なんです。イカさんが死ねーレッドー!とがばっと飛びかかろうとするんだけど、レッドさんが足蹴にしてK.O.。あ、あっけなさすぎる‥いいのか怪人がそれで‥。


「はるの、だっけか、こいつらにかかわんねーほうがいいぞ」
「へっ」


はるのって言ったはるのって言ったレッドさんがはるのって言った、こたろうがくるくる足元を回るのでリードが絡まるのも忘れて立ち尽くしてしまった。ら、ヴァンプさんに心配されて川崎支部まで連れて行かれました。なにこのアットホームなファミリー。






































3なかよしになる


ウサちゃんがひざのうえですやすやと眠っているのでなかなか動けないでいると、「ういーす」玄関から声。どうしよう、出た方がいいのかな、でも、勝手にでるのも悪いかなと問答していると誰かは普通にあがりこんできて、って、「レッドさん、!」「お、お前か」すっかりなじんできてんなーと笑うとこたつにもぐりこむ。レッドさんとわたしの角度、90度。


え、え、なにこの状況。足が触れそうで触れないこのもどかしさ、まって二人きり?ウサちゃんいるけど!ウサちゃんがぴくんと動いたので起こしちゃったかな、と頭を撫でる。と、再び寝息が聞こえたので身じろぎしただけみたいだった。寝顔もかわいいなあウサちゃん。かわいいなんて言ったら怒られちゃうから黙っとくけど。


ヴァンプさんに何か用事があるのだろう。こたつから身を乗り出すと勝手知ったるなんとやら、テレビをつけてかちゃかちゃチャンネルをいじると元の姿勢に戻って、赤い絨毯を流れて行く番組を見てはははと笑った。


「レッドさん、お茶、のみます?」


わたしもわたしだけど、ヴァンプさんから直々にお茶っぱはここ!お茶菓子はここ!お客さんが来たらよろしくね!と教えられてるので、レッドさんにお茶でも、と思ったんだけど、「いーよいーよ、そいつも寝てんだろ」そうだ、ウサちゃん起こすのもかわいそうだし。それにしてもぐっすり寝るなあ、よっぽど眠かったんだろうなあ。いつもお仕事してる、し。


ウサちゃんを気遣ってかいつもより話声がちいさい。うーん、なんか、なんか、幸せだなあ。家族の休日っぽい!
‥ 家族の 休日 。家族、かぞくって、えええなにかんがえてんのはれんち!ばか!おたんちん!ごめんなさいレッドさんそんなこと思ってないですから、すみませんすみません。
でも、レッドさんの横顔みながら過ごすのも素敵だなあと思う。


「ただいまー、あ、レッドさんのくつ!」
「おかえりなさーい」
「おう おせーよお前ら」
「‥むにゃむにゃ。ななくさー、おはようー」
「おはようウサちゃん」
「俺は無視か」
「うるさいレッドー!ころすよー!(せっかくくうきよんだのに!)」






結論:ほんとうにわたしだけがたのしい

0914
ちしまふうろ