きらきらひかる 幸村


どうしてマネージャーでもなんでもない一生徒がマネージャー業なんてやってるかって友達のなずなに頼まれたからだよ、だって31おごってくれるっていうんだもん。今日はどうしても外すことができないのよおおおおおって、わたしも鬼じゃないから快くマネージャー業を代理することにしたわけで。レギュラーのみんなとは顔見知りだし、も、はるのがんばります!みたいに張り切っている所存であります。


「はるのさん、ドリンクお願い」
「はいはーい!」


なずなから手順は聞いてはいたけど慣れないからかなかなか手が回らない。うう、役立たずでごめんなさいみなさん‥!さっき作って置いたスポーツドリンクを両腕に抱えてテニスコートまでダッシュダッ、「あ」うぎゃああ恥ずかしいていうかドリンクたちが‥!かわいいドリンクたちが…勢いよくぶちまけられてしまって地面は大きな染みを作っていた。慌てて立ちあがろうとしたんだけど、あれ、足、ひねった、かも!だめじゃんわたし使えねえな!う、いたい。


いつのまにか幸村くんがドリンクを拾いながらわたしの腕を掴んでいてうえに引き上げてくれた。わ、びっくりした!そんなに力を入れているようには見えないのにするりとわたしの体が持ち上がったからだ。


「あ、ありが」
「なにやってるの。‥はるのさんてさあ、それわざとやってるの?みんな心配するでしょ、なんで何もないところで転ぶかなあ、少しは気をつけようって思わない?なんでそんなに心配かけるの」
「え、あ、あの、すみませんー!」


幸村くんがひといきで(息継ぎなし!)言いきってしまうので正直何言ったのか聞きとれなかった、けど怒られて、は、ないんだよね、ね?


「ほら、けがはないのかい」


正直に言うと足ひねったみたいでちょっぴり痛いんだけど、この忙しいときにそんなこと言ってられません!だってわたしはマネージャー!あとでしっぷはればいいや!


「大丈夫っす、問題ありません!」
「、ほんとうに? ふーん、じゃ、行こうか」
「いえっさー!」


びしっ!幸村くんはジャージを翻して(なんかかっこいいな!それにしてもなぜ落ちないのかが不思議でしょうがないんだけど、え、あ、禁則事項ですか雲雀くんと同じですね!)コートに戻っていく。
右足がじんじんするけどドリンク配って、「‥に、仁王くん?ドリンクです、!」「さーどっちじゃろ」「や、柳生くん!」「はずれ。はじめのであたっとるよ」「おお!」「はようわかるようになりんさい」「おっす!」ええと、次はー、なずなからもらったメモを見ながら洗濯干して、ボール拾って、備品チェックして、なずなはいつもこんなことをこなしていたのか‥!まじ尊敬するよなずな‥!明日コアラのマーチ買ってあげよう。


「先輩」
「はいはーい」
「洗濯かご、まだ平気っすか?」
「平気っすよー、部室にあるから放っておいて」
「うぃーす」


部室に走っていく切原くんは犬みたいでかわいいと前々から思っていたんだけど、こんなこといったら怒られそうだから心のなかにしまっておいた。夕焼けの赤が藍に浸食されて、だんだん薄暗くなっていく。練習は終わって、片づけに入ったようだ。保健室はまだ空いてるかな、全員解散したら寄って帰ろうっと。


部活終了の声が響いて、部員さんたちがわらわらと部室へむかっていく。


「タオルここにお願いしますっ」


たくさんのタオルが積み上げられて、あっというまに洗濯かごはいっぱいになった。えっと、これを回して、いけばいいんだよね!真田くんがなんだかげっそりしたような顔をしていたのでちょっと心配だ。練習そんなにきつかったのかなあ。


「はるの、今日は大変だったろう」
「お、柳くん、うん、びっくりしちゃったー、マネって大変なんだねえ」
「芹もひとりで大変なようだから、時々手伝ってくれると助かる」
「まじっすか。わたしでよかったらいつでも手伝うよ!」


うっすら微笑んだ柳くんはラケットを片しに部室へ戻っていく。おつかれさまっしたー!部員のみなさんは着替えやら片づけやら各々の仕事にかかっているのでもうタオルは閉め切ってもいいかなあ、問題はこの大量のタオルを洗濯機までどうやって運ぶかってことで、


「よ、よいしょー」


うお、けっこう、というかめちゃくちゃ重いいいいい、踏ん張って立ちあがろうとしたら思いのほか重くたくてびっくりして、足首がぐきって、いってええってなって、「うあ」タオルをぶちまけました。やらかした。だ、だれも観てませんように!部員のみなさんは片づけやら着替えに行っているようで、誰もこちらには注目していない、はずだったのに。焦ってタオルをぽいぽいかごに戻して、さあ再び洗濯機へ、「やっぱり」「へ」背後からなんかまがまがしいオーラを感じるんですけど気のせいですか、‥、気のせいではありませんでした、「ゆ、幸村くん、ごめんね、すぐ片すか」「いいから。あかやー、ちょっとマネ保健室連れてくからこれ洗濯機までお願い」「おれっすか!なんで!」「何?なんか言った?聞こえないんだけど」「あーもうわかりました!保健室でもどこでも行ってきてください!」役立たずなわたしのばか!切原くんごめんなさい!‥それよりも、


「‥さっき大丈夫って言ったよね」
「‥すみません‥」


うう、幸村くんのおかおが見られません‥「立てるの」ゆっくり立ち上がると幸村くんに手をひかれて連行、もとい保健室へ連れて行かれました。いつもよりもゆっくりのペースで保健室までの廊下を歩く、あの、もうそろそろ、手、離してくれても、「いいから」あっそうですかいいですか、掴まれた腕が熱くなる、無駄に緊張するんですけど!


「なんだ、先生帰ってる」


まあいいかと保健室に入って、わたしは長椅子に座らされて、幸村くんが戸棚を探る。きー、ぱたん、きー、ぱたん、!ここでもないこっちでもない、といらいらしたように扉を閉めた。


「あの、ごめんなさい、ゆきむらくん」
「ほんとだよ。いい迷惑」
「‥」


ですよね、ほんと役立たずでごめんな、さい。うう。


「泣くことないだろ、怒ってないし」
「うえ、だって、」
「あのね、どうせ転ぶんだったら俺の見えるところだけにしてくれないかな。」


「え、っと」


「困るんだ。君がほかのやつらの前で転ばれると。なんだよその顔、いつもみたいにへらへら笑ってろよ」


ほっぺたをむいーって引っ張られた。いつものふわってした幸村くんじゃない幸村くんがそこにいた。な、なんかかおちかくないですか、ていうかのびてるのびてる、「ぶさいく」ですよねー、ははは。笑うしかないです、よね。思わずへらりと笑うと「合格」と幸村くんが言ってほっぺをこすってくれた。





ちしまふうろ

thanks!*tomato

0812