はじけたせかい 幸村
いい天気だなあ、初夏って感じで。太陽なんて燦々と照っているし、つい最近までの梅雨のじめじめなんて吹き飛ばしてしまったみたいだ。わあ、なんか楽しくなってきた!真夏は暑すぎてだれちゃうけど、いまくらいの気候なら大歓迎。日に日に急上昇していく気温のせいか(温暖化ですな)(うんうん)プランターや花壇の花たちはこころもち元気がないようで。
はるのななくさ、園芸委員でもないくせに水やりしたいと思います、ごめんなさい!いや、だって乾いてるからつい。水道全開!お水発射ー!蛇口をめい一杯回して、シャワーのノズルをぐっと引く。
虹が見える。小さな小さな虹だけど、自然と頬が緩んだ。テニスコートからはぱこんぱこーん、とさわやかな音が聞こえて、わあ、なんだか青春です。鼻歌歌っちゃいそうになるくらいうきうき。そんなだから、
「はるのさん」
「はい?」
、くるり、声のした方向に体を向けたわたし、そこにはふわふわした感じの男の子が、そして問題です。わたしの手には何が握られていますか?答え、ホースです、しかも水やり中の!絶賛放水中!さああああ、と血の気が引くと同時にシャワーは男の子にも降り注ぎ、制服を濡らす。
「ごっごめんなさっ」
あっ水止めなきゃっていうかまずホースを彼からそむけなきゃ、あわててホース離すと(なんで離したんだわたしのおおばか!)ホースが引っくり返って、わたしにも彼にも天然シャワーが降り注ぎました。「ひ」つめてええええ、プール開きかこのやろー!ヘッドのところを「そおい!」蹴り飛ばして(はしたなくてごめんなさい!)、ノズルを横にしてから蛇口に走って水を止める。水たまりができていた。完璧にお水のやりすぎである。そうだ、男の子!
わたしの名前を呼んだ男の子は、シャツとかズボンの半分くらいが濡れてしまって、というか全体的に水滴を被ってしまったようで、ひたすら申し訳なくなる。ワイシャツの袖で顔を拭う彼、水も滴るなんとやら、じゃなくて、わわわ、だれだっけ、そうだ、テニス部の、
「ゆ、ゆきむらくん!」
テニス部部長、の、あの、強い人、だ!ひええええそんな人に水かけて、風邪でも引かれたらどうしたら、
「ご、ごめんなさい、あの、タオル、ちっちゃいんですけど、」
ほんとにごめんなさい、とポッケからリラックマのハンカチを取り出して幸村くんに押し付けるけど、
「大丈夫だよ、こっちこそごめんね、いきなり声かけちゃって」
「いや、あの、制服、」
「ああ、俺は大丈夫だよ」
それよりも、驚かせちゃってごめん、と幸村くんは柔らかな動作で鞄からタオルを取り出して、わたしの頭に被せてくれた。あれわたし何やってんのわたし、
「まだ使ってないから」
ふんわりと幸村くんは微笑んで、うおああ近い!近い!耐えきれなくなって目をつぶってしまう、いや使用済みでも平気ですけど、ていうかなんかもうすべてがごめんなさい!
「あと、」
「へ、」
幸村くんはちょっと困ったように目線をそらし、ん?、あ、。
「!すすすすすみませんー!」
貧相なもの見せてごめんなさいなにから何まで最初から最後までごめんなさああああああ!夏のいたずらってやつですね、妖精さんの仕業だね!幸村くんに借りたタオルをあわてて胸元に引き寄せる。ピンクピンク!ちょうぴんく!今日に限って色が濃い!キャミソール仕事して!
「、ごめんね、これでよければ」
ぱさりと肩にかけられたのはからし色の立海ジャージで、あの、これ、
「使って」
「あ、ありがとうございます…!」
幸村くん、素敵すぎます、惚れてしまいそうです、王子様ですかあなたは。
俺は部室に戻るけど、平気かい?
と幸村くんは悪くないのに申し訳なさそうな顔をして、わたしは大丈夫です洗って返しますありがとうございます!と焦って口走るといつでもいいからね、とテニスコートに向かっていく幸村くんにフォーリンラブ、してしまったようです。幸村くんを見送った後、ジャージの前をあわせて急いで教室に走る、幸村くんは着替え、大丈夫かなあ、風邪ひきませんように、それにしても優しいんだなあ、ブンちゃんが怖い怖い言ってたような気がするけど、全然そんなことないじゃん!お日様みたいな人だったなあ。
(あれぜったい確信犯だよな)
(やっぱり?)
(はるのは多少抜けているところがあるからな、予想して声をかけた確立98%)
(やっぱり危険だぞはるの!だから言ったのに、さりげなく。幸村はやめとけって)
(さいきんうれしそうに話とったもんのう、はるのが水やりしているところが見えるんだって)
(うわあ、部長、ぱねえっす…)
(たたたたたたるんどる!なぜこの時期の女子は直に下着を…!(わなわな))
(今日はピンクか)
((((…))))
はじけたせかい
ちしまふうろ
0504
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