岩泉と一緒に帰る

 珍しく岩泉くんの方から一緒に帰ろうと誘われて、久しぶりに一緒に帰れるるんるん♪ではなく、もしかしてこれは別れ話をされるのでは!?って、心配のどきどきが上回るのは、まだわたしのほうが岩泉くんのことすきだからで、岩泉くんが告白してくれたのだって、夢みたいで友達にほっぺた何回もつねってもらった。めちゃくちゃ痛くてほっぺたが赤くなってしまって、帰り道に岩泉くんに心配されたのは記憶に新しい。


 さてさて月曜日。バレー部の部活のない日。下駄箱で待ち合わせをして、下校していく友達に手を振って。人が少なくなった瞬間を見計らって、ポケットから手鏡を出して前髪チェック。ちょっと右側の毛先がはねているけど、もっとしっかりブローしておけばよかった・・・。「待ち合わせ? ばいばーい」「あ、いいんちょ、ばいばい!」リップクリームを取り出して、ひとぬり・・・、もう一往復。むこうの校舎から、トランペットの音が聞こえる。基礎練習中らしく、音階が上がって下がってを繰り返す。ふと教室側を見やると、廊下は走らない、の貼り紙を完全に無視した岩泉くんが見えた。


「わり、待たせた」
「ま、マッテナイヨ!ゼンゼン!」
「なんで片言なんだよ」


ははっと笑う岩泉くんの横顔のかっこよさったら!お互い下駄箱からローファーを取り出してぽこんと玄関に落とす。コツコツとつっかけて、バッグを肩にかけ直して帰る準備万端!「どっか寄りたいとこ、あるか」「えっ」まさかそんな、一緒に帰れるだけでも嬉しいのに「寄り道!」「寄り道。たまには」「デートみたい!」「・・・」あ、黙ってしまった。校門までの道なりですでに気まずいってどういうことでしょう、やばい浮かれすぎた。


「デートだろ」


岩泉くんの口から、デート、という単語を聞いたら、さっきまで別れ話されたらどうしようとか思ってた気持ちはふうせんみたいに飛んで行ってしまった。デート。デート。岩泉くんの横顔が、ちょっとだけ赤く見えるのは気のせいだろうか。少なくとも、わたしばっかりすき、ってことではないらしい。ふふふ。にやける口元を隠しながら、駅前のドーナツ屋さんとかどうかな、甘いのやだかな、でも岩泉くんがデートっていうの、なんかかわいいな、なんて思っていると、「んふふー岩ちゃんがデートっていうとかわいいね」あれ、心の声漏れたかと思った。


「うるせぇクソ川」
「いったぁ!」


いつの間にか後ろから現れた及川くんにローキックが決まる。及川くんはけらけら笑いながら「ごゆっくりー!岩ちゃん送りオオカミしちゃだめだよー!」なんて言うものだからまわりを歩いていた生徒たちが苦笑しながらこちらを振り返る。「黙れクソ川!はやく帰れ!」岩泉くんはしっしっと動物を追い払うように手を振る。


「おくりおおかみ・・・」
「しねえぞ!?」


こちらを振り返る岩泉くんがいつになく焦っているように見えて「・・・笑うなよ」あ、拗ねちゃった。




▼岩泉と一緒に帰る
真由さんへ!