隣の席の田島くん



わたし将来xとかyとかつかう予定ないし、三角比とか意味不明、大体いつ使うんだサインコサインVサイン!あ、違うなこれイナバくんだっけ天才てれびくんのやつ好きだったなあやまちゃんとか可愛かったなあアリス探偵局だったかなあ、あーあのころは楽しかった。今といったら数学なんて将来四則計算できれば生きていけるだろうにどうして厄介なものを学ばなければいけないのか学力社会死ねどうせつかわないくせに!好きな人だけ学べばいいと思うんだよ数学とか科学とか生物とかさあ。
教科書99ページの例題3を解けと先生が言って、まあわたしは当たらないだろうと勝手な予想を立て人間観察でもしようじゃないかとくだらないことを考える。まずは手ごろなお隣さん、田島くんに目をやる。あ、寝てる。部活で疲れてるんだろうなあ、机の上に開かれた教科書、ノートに腕を重ねてまくらにしてかおをこちら側にして寝てるからよく見える。可愛いなあわたしひとの寝顔見るの好きだなあもしや寝顔ふぇち?どんなだ。いつも元気というかにぎやかな田島くんが静かに寝息を立てているのを見るとねじの切れた人形というかほら、ゼンマイで動く人形って突然ぷっつり動かなくなって静かになるっていうか、そんな感じのことを思い出した。すうすうとゆっくりと深い呼吸をしていてわずかに背中が上下する。どんなゆめを見ているんだろう、田島くんの口元がやわらかく弧を描いた。
ぼおっとしてきた意識を黒板に向けると生徒が問題を解き終わるのを待っている先生と目があった。あわててわたしはシャーペンを動かす振りをする。ときどき考えてるそぶりを見せながら。書いてるものはただの落書きなんだけど。わざとらしく消しゴムまで使ったりして。そうだ、田島くん、いつもがんばってるもんなあ。そら眠くなるよなあ、わたしが田島くんについて知ってることは彼が野球部で4番でサードで天才だという小指ほどの情報だけど、帰り道に見えるグラウンドの様子を見て努力あってこその天才だと思った。あーなんかいいな野球!とか思ったのも田島くんがきっかけかもしれない。
おとなりの席同士だけどそこまで仲が良い!ってわけじゃないわたしはプリントの丸付けのときにどさくさでふたことみこと話すくらい、朝練がとても早いということと夜も遅くまで部活をしていることを聞いた。わたしなら朝練だけで倒れるなきっと。‥‥なんでさっきからわたし田島くんのことばかり考えてるんだ。
ちらりともう一度となりを見てみるけどさっきと変わらずしあわせそうな笑みを浮かべている田島くんがいて、わたしもだんだん眠くなってきた、シャーペンはそのまま、頬杖つきつつ目を閉じて。ああ空が綺麗だなあ。

「はるのー、指されてるぞー」


田島くん、のこえ?‥えあ!わたしかよ!


(わかんねえ!)(はるの、これ!)(!ありがと田島くん!)


「さいんはさんぶんのに!」
「不正解」


(がーん!)(わり、間違えた)



2015/07/16
ちしま