この世界はソプラノで反響する

「はるのさん、ルーヴル展、一緒にどうかな」


幸村くんから誘われたのは、大きな美術館でやっている期間限定の展覧会だった。なんでも、パリのルーヴル美術館にある風俗画?の展開を辿る?という?展覧会が開催されるらしくって?幸村くんが好きなのは誰だったか忘れちゃったけど、とにかく、すごい絵がたくさんやってくるらしい。わたし、あんまり絵に明るくないんだけど大丈夫かな。まあ、幸村くんと一緒にデートできるなら、どこへでも行くけどね!


デートの当日、待ち合わせに現れた幸村くんの私服姿にときめきつつ、電車を乗り継いで、美術館まで。電車の揺れにあわせてくっついては離れる肩にすごくどきどきして、早くも息切れしそうだった。なんかちょういいにおいするんだけど・・・!変態かなわたし。


美術館は、最終日が近いからか、混雑していた。幸村くんがすっと手を繋いでくれる。こういうところ、すごく好きなんだよなあ。「あ、幸村くん、お金」「大丈夫だよ、俺がはるのさんと行きたかったんだから出させてよ」くううううずるい。展示の入り口のところで、音声説明をしてくれる機械を借りる。「きっと、これがあったほうがわかりやすいかもしれないよ」って幸村くんが言ってくれたから。なるほどこれはありがたいかもしれない。


「・・・えーと」
「はるのさん、こっちだよ」


出だしから躓く。わたし、美術館なんて全然行ったことないんだった。やばいやばい正直まったく絵のよさわかんないかも。見ても「はー」「ふーん」「ほー」しか感想出てこないんだけど。むしろ次のアニメの展示会のほうがわかるかもしれない。幸村くん、こういうのは興味あるかな・・・。


絵を見つつ、音声を聞く。幸村くんが見つめる先にあるのは、天文学者という絵だった。ふ、ふぇ、フェルメールの傑作らしい。なるほど。


「初来日なんだって」
「そうなの?」
「ずっとルーヴル美術館で展示されていたんだよ」
「ほお」


ほおって。ほおって。もっと頭のよさそうな答えはできないのかわたしは!幸村くんはふふっと笑って、あほなわたしを気にすることなく、次の絵に向かう。時々、近づいてみたり、ちょっと離れたり見たり。わたしも幸村くんに倣って、近づいたり離れたりしてみる。なるほど。ちょっと違って見えるような、気がする。


「いろんな人が、この絵たちを見てたんだね、ふしぎなきぶんだなあ」
「ふふ、はるのさんのそういうとこ、すきだなあ」
「えっどうしてそこでデレるの!はずかしい!」


途中で突然のデレに心臓を撃たれつつゆっくり1時間半くらいかけて、全部の展示を見終わった。こういうときって、なんていえばいいんだ!感想がまったく浮かんでこない。すごかったね?きれいだったね?表現力がほしい。わたしたちは外のベンチに腰掛けた。


「はるのさん、すきな絵はあった?」
「えっと、えっとね、・・・水瓶を持った、女の子の絵、かな」
「音声ガイドつけててよかったよね、あのおかげで表情の見方が変わったような気がした」
「そうなのそうなの!さいしょはね、寂しげな顔してるなーと思っただけだったんだけど、あの水瓶、割れてたのってそういうことだったんだあ、って」


話しているうちに、幸村くんの顔がほころんだ。「さっきから難しそうな顔してたから」えっまじで!恥ずかしいな。感想なんていえばいいんだろうーって悩んでたけど、幸村くんが聞いてくれたおかげで、すごく話しやすくなった。幸村くんパワーおそるべし。


「あのね、あんまり絵のことわかんなかったけど、幸村くんと来れてよかった」
「俺も。はるのさんと行けたからもっと楽しかったよ。ありがとう」
「こ、こちらこそ・・・!」


ぐはーと心臓を抑えるとばっくんばっくんいってる。くちから飛び出してしまいそう!


title:花畑心中
2015/07/04
ちしま